ミニ・レビュー
ア・パーフェクト・サークルやヴォルトなどでのサイド・ワークを経て、5年ぶりに発表した話題のアルバム。ダーク&ヘヴィな孤高の音世界は不変ながら、一段と高みと深みに達した音像は圧巻だ。一編の大作スペクタクル映画を観るような壮大なサウンド・スケープは彼らならでは。★
ガイドコメント
ヘヴィ・ロック、オルタナ、プログレッシヴ・ロック、メタルなどすべてを飲み込み独自のサウンドを構築してきたモンスター・バンド、トゥールの5年ぶりの新作アルバム。圧倒的なヴォリュームで聴ける大作だ。
収録曲
01VICARIOUS
ギターとベースのフレーズが絡み合い、生み出される変則リズムのイントロから一気にヘヴィに。囁き、時に噛み締めるように歌われるヴォーカルは、そのヘヴィなサウンドに呼応しながらも醒めた瞳を投げかけているようだ。
02JAMBI
低音のギター・リフとベースのリズムが、爬虫類が這うような複雑なうねりを作り出す。中盤で一瞬ハードなサウンドに変化する場面もあるが、全体的にヘヴィながら抑え目な曲で、呪術を唱えているかのごとく、不気味な世界を描き出す。
03WINGS FOR MARIE
ぼんやりとしたパルス音に静かにかぶさるギター。感情を殺したヴォーカルが、時折聴こえる金属音と呼応し御経のように響く。終盤、急にハードに覚醒するが、再び静かな世界に戻ると、重い扉を閉めるような音とともにラストを迎える。
0410,000 DAYS
静かに始まるベースのリフ。遠雷の音と祈るようなヴォーカルは曲が進むにつれ、徐々にハードに変化していく。完全にハードになると再び静かになり、曲の最後が「ウィングスpt1」のオープニングに繋がる音になっている。
05THE POT
ア・カペラの歌で始まり、音が加わって重なっていくことでハードな曲となって突き進んでいく。ヘヴィなベース、時折ノイジーになるギターとドラムがポリリズムを刻むなか、バックに呼応してヴォーカルが叫ぶ、メロディのしっかりした曲。
06LIPAN CONJURING
古くからの儀式を行なうような、民族音楽を思わせる短い合唱曲。途中でやや遠くに聴こえる叫び声や単音のギター音など、単なる民族音楽の真似ごとではなく、アルバム全体の不気味な世界観をしっかりと浮き彫りにする役割を果たしている。
07LOST KEYS
最初から終わりまで、延々と続くギターのフィード・バック音。その音をバックにゆったりした一定のパターンのリフを繰り返すもう一本のギターの音。途中から男女の会話と荒い息遣いが挿入され、まるで映画のBGMのようだ。
08ROSETTA STONED
アルバム『10,000デイズ』の前曲「ロスト・キーズ」からそのままイントロが始まる。セリフのような早口の声は歌というより、楽器の一部分のように機能して、聴くもののイマジネーションを刺激する。このバンドらしい複雑なリズムと構成が、曲が進むにつれ展開していく。
09INTENSION
鉄鋼所に来ているようなSEの間から聴こえてくる囁き声。そこからゆったりとした、まるで右も左もわからない道を歩いているような錯覚に陥るような曲へと発展していく。決してヘヴィにならず、聴くものを別世界に誘う。
10RIGHT IN TWO
スローなギターとベースに、民族楽器のようなパーカッションが絡むバックに導かれ、淡々と言葉を紡いでいく歌。しかし、そのどんよりとした世界は徐々にヘヴィなサウンドに変化していき、組曲仕立てようだ。
11VIGINTI TRES
曲というよりは、音のコラージュである。機械音を獣の息遣いのように処理している、不気味さを感じさせるナンバー。ノイジーでインダストリアルなこの感じは、往年のスロッピング・グリッスルを彷彿とさせる。