ミニ・レビュー
何を歌ってもさまになる歌い手が、新曲のみで構成されたアルバムを4年ぶりに発表。気心の知れた布陣のせいもあって、安定感のある世界を展開。(2)の「♪ジュリアロバーツエステバン」といった歌詞など、親父ギャグすれすれの茶目っ気も相変わらず。★
ガイドコメント
4年ぶりとなるオリジナル・アルバム。通算19枚目となる本作には、星勝、鈴木茂、後藤次利、佐藤準などのアレンジャーが参加し、陽水の世界に彩りを加えている。
収録曲
0111;36 LOVE TRAIN
なにか訳ありな雰囲気を漂わせながら、旅に出るふたり。その心情を見事に表わし、怪しげな哀愁を醸し出すヴォーカルや重たいリズムに絡むオルガンの音色がいい。陽水自らがアレンジを担当。
02サイケデリック・ラブレター
裏打ちリズムにのって、次々と有名女優が登場する独特の歌詞は陽水ならでは。どこか人を食ったような、ほろ苦い甘さを持った声に身を委ねる心地良さ。映画好きな彼ならではの女優へのラブレターだ。
03ナビゲーション
韻を踏む印象的な歌詞やつられて思わず身体がリズムを刻む軽快なメロディは、陽水マジックといえる。とてもリラックスした空気が全編に流れ、イメージはゆったりとした夏を想わせるナンバー。
04ミステリー あなたに夢中
持田香織(ELT)がリリースした「いつのまにか少女は」(2004年)のカップリングとして書き下ろしたナンバーのセルフ・カヴァー。佐藤準のアレンジにより、男の色香的スパイスが加わったのが興味深い。
05架空の星座
深みのあるスロー・ナンバーで、作曲は矢野顕子。アルバム『はじめてのやのあきこ』(2006年)では彼女とのデュエットを聴くことができる。大きな愛で包み込んでくれるかのように、ゆったりとたゆたうメロディが素晴らしい。
06新しい恋
町田康のユニークな視点での歌詞が痛快で、陽水のヴォーカルもどことなく楽しげに聴こえる。鈴木茂によるアレンジは、南部っぽい雰囲気を漂わせるサウンドで酔わせてくれる。本人出演の『ザ・サントリーオールド』CMソング。
07蜘蛛の巣パラダイス
この曲のアレンジャーでもあるベーシスト・美久月千晴との共作曲。フィンガー・スナップとウッド・ベースの音から始まり、名詞を羅列したヴォーカルが飛び込んでくる、シブく妖しげなナンバー。その雰囲気を楽しみたい。
08長い猫
ギター、ベース、ドラムといったシンプルなトリオ演奏で熱く聴かせるロック・チューン。詞は娘である依布サラサとの共作で、陽水の突き抜けたヴォーカルが、ここでは従来から感じとれるシュールなイメージをより拡げている。
09歌に誘われて
“バスに乗ろう”をコンセプトにした西鉄バスのCMで話題となったナンバーで、2004年に福岡限定でシングル・リリース。のんびりとしたバスの車中、のどかな日常を凝縮したかのような柔らかなヴォーカルとアコギの音とがアットホームに響く。
10愛されるのがWOMAN
甘くメロウなサウンドにのせて歌われる極上のアーバン・ポップ。陽水が女性に向ける目線はやさしく温かい、でもそれだけではないのでは? と思わせる不思議な雰囲気は、聴き手のイマジネーションを限りなく拡げる。
11あなたにお金
このタイトルで、このスロー・バラード。意外性を感じるより先に陽水らしいと思わせるほどシニカルでウィットに富んでいる。名コンビとして知られる星勝のアレンジが、懐かしい空気を運んできてくれる。