ミニ・レビュー
デビュー作を全世界で500万枚も売った彼らの待望の2作目。その独創性からU2のツアーの前座にも起用された彼らのサウンドは、奇しくもポストU2的なUKロックを象徴している。弦なしでも十分に“ロック”できることをあらためて証明した期待どおりの一枚だ。
ガイドコメント
2004年にリリースされ、その繊細で美しいメロディで話題を呼んだ『ホープス・アンド・フィアーズ』に続く2ndアルバム。本作も前作以上に耳に残る印象的なメロディのサウンドが多数収録されている。
収録曲
01ATLANTIC
深く暗いピアノの旋律と重々しいリズム。絡みつくようなトムのヴォーカルが、空気の粘度をさらに高くしている。閉塞感のあるサウンドを美メロで一気に解放へと導く見事な構成は、海底に射す光のような神々しさを放っている。
02IS IT ANY WONDER?
ピアノ・バンドというイメージを覆す、ワウギターのリフが衝撃的な一曲。スピーディなリズムに乗せて奏でられる、どこかひねくれていて、やっぱり美しいKEANE節と心の影を内包した歌詞は、初期のレディオヘッドを思い出させる。
03NOTHING IN MY WAY
ピアノの旋律をフィーチャーした、1stアルバムの色を受け継ぐメランコリックなナンバー。天上から降り注ぐようなトムの透明な歌声と、一瞬で心を掴む美しいメロディの絡み合いは、溜め息が出るほどの美しさだ。
04LEAVING SO SOON?
ティム、リチャードとメンバー全員が参加したコーラスが印象的なナンバー。緩やかなブレイクビーツのリズムに乗せて、織り上げられていく滑らかで光沢のある旋律は、まるで絹のようだ。
05A BAD DREAM
スロウなデジタル・ビートを基盤に、メランコリックな歌声と様々なサウンド・コラージュが浮かんでは消えていくナンバー。後半の盛り上がりとストリングスの絡み合いの神々しさは、至上ともいうべき完成度。
06HAMBURG SONG
オルガンとピアノの旋律、吐き出されるようなトムの歌声のみで構成された弾き語り的な一曲。無駄な音を省いたことで、トムのヴァーカリストとしての実力をよりリアルに体感できる。些細な願いと希望が、大きな祈りを込めて歌に乗せられている。
07PUT IT BEHIND YOU
軽快なビートの上を、リズミカルなピアノの音色と伸びやかなヴォーカルが駆け抜けていくアップ・チューン。奇妙にねじれているようで整合性のあるメロディは、不思議な美しさがあり、聴いていて癖になる。
08THE IRON SEA
ダークなサウンドに彩られたインスト・ナンバー。歪ませたシンセのメロディとベース、オペラのクライマックス・シーンのように重厚なコーラスが、楽曲のスペクタクル感を演出している。
09CRYSTAL BALL
叩きつけるようなピアノの旋律と軽快なリズムが印象的なミドル・ナンバー。サビで一気に突き抜けていくメロディとヴォーカルの美しさはキーンお得意の構成だが、この曲で見せるトムのファルセット・ヴォイスの透明度は白眉だ。
10TRY AGAIN
ゆったりとしたブレイクビーツや電子音を取り入れるなど、エレクトロニカ的なアプローチが目立つ一曲。透明度を上げたサウンドとクリアなヴォーカルの美しさが、胸の奥まですっと染み込んでいくようだ。
11BROKEN TOY
3拍子のリズムと調子はずれなピアノのメロディ。奇妙なサウンド・コラージュを取り入れた、“壊れた玩具”というタイトルそのままの一曲だ。高い作曲能力で、破綻しているようでいて実は優れたメロディ構成で最後まで聴かせてくれる。
12THE FROG PRINCE
ピアノとストリングスが絡み合うドラマティックなナンバー。あるおとぎ話になぞらえられたというシニカルな歌詞の世界は、富と名声を手に入れたバンドの状況を皮肉っているようにも受け取れる。
13LET IT SLIDE
シンセサイザーのきらびやかなフレーズとアッパーなドラムが気分を高揚させるポップ・チューン。カラフルなメロディが空へ伸びていくように突き抜けていくサビは、昇華感があり心地良い。