ミニ・レビュー
清春の4枚目のアルバムは、赤裸々に胸の内を明かした、リアルな言葉でつづられたプライベートな全13曲。アルバム・タイトルは、彼が長年温めていた、思いがこもった言葉。今まで以上に歌を聴かせる繊細な音創りとなっており、聴く人の心に歌詞が突き刺さってくる。
ガイドコメント
通算4枚目のオリジナル・アルバムは、清春史上、最も歌心がある、ミディアム・ナンバー中心の“聴かせる”アルバム。清春ならではの、切々と歌い上げる、胸に沁みてくる楽曲群で構成されている。
収録曲
01架空の海岸
アルバムのタイトル・トラックでもある、アルバム冒頭を飾るインストゥルメンタル・ナンバー。作曲・編曲ともに三代堅が担当。重々しいリズムとともに、荒涼とした空気を運んでくるようなギターが、静かに響きわたる。
02dance
淡々としながらもメロディアスなラインを辿るベースを軸に、別れ際の男女をクールに描く。が、“君の瞳”に映るものに心乱されていくさまを切り取ったかのように、切なく荒れ狂っていく。迷える心が鳴り響く。
03bye bye
エッジの効いたギターのイントロから、軽やかに叩きつけられるドラムが曲全体を風通し良く加速させていく。悲しみを漂わせながら疾走していくバンド・サウンドが“逃避行”を思わせ、迷宮に入り込んでいくようだ。
04エメラルド
炸裂するバンド・サウンドに絡みつくようにして歌われる君への想いからは、焦燥感や狂気に近いものまで感じ取れる。踊り狂うように掻き鳴らされるギターは、爆発寸前の状態を連想させ、刹那を感じさせる仕上がりとなった。
05slow
切ないメロディとヴォーカルのバックで、感傷を振り払おうとするかのように掻き鳴らされるギターが胸を掻きむしる。繰り返されるメロディが、離れてしまった人への愛しさや色褪せない思い出を胸に刻みつけていく。
06cold rain
振り絞るような声で、凍てついた心の闇に歌いかける詞が印象的。ゆったりとしたリズムが力強く叩きつけられ、空に重々しく響きわたっていく。装飾の少ないストレートな言葉から、切実な想いが伝わってくるナンバー。
07club「HELL」
粗削りなバンド・サウンドによって展開されていくサイコビリー調の曲。パンキッシュながら、クネクネしたヴォーカルと危険な香りがする歌詞からは妖艶さが漂う。暴力的でスリリングな魅力を感じさせるナンバー。
08星座の夜
通算7作目となるシングル表題曲。曲調は若いバンドによくあるポップなロックだが、彼の声というフィルターを通せば、たちまち精神世界を彷徨うように聴こえる。音の洪水と「星が回る」という言葉の組合せが絶妙。
09travel
荒々しいアレンジの中を掻き分けるように、ダンサブルなビートが進んでいく。ドカドカと響いてくるドラムや一糸乱れぬベース、奔放な感じのギターなど、情報量が多いサウンドのなか、“賛美歌は流れるよ”と歌われる。
10湖
“太陽”や“湖”が出てくる、イマジネーションを刺激する幻想的な歌詞が、アコギの物悲しい旋律と相まって、どこか遠い辺境の地を思わせる。ひんやりとした質感のサウンドから、真冬の張り詰めた空気が感じられる。
11And I can't feel nothing
哀愁を帯びたメロディとメランコリックなギター・サウンドが胸を打つミディアム・ナンバー。流れるようなメロディに乗せて歌われる“Nothing”というフレーズが虚しく響く。ほのかにワビサビを感じさせる曲。
12この孤独な景色を与えたまえ
愛する人と別れたあとの“孤独な景色”から、祈りを捧げるように歌い上げる。泣きのメロディを、淡々とした無機質なリズムが支える。深い悲しみを漂わせながら、自己犠牲の美学を感じさせるバラード・ナンバー。
13君の事が
清春にとって初となるミディアム・スロー・バラード。7分強という長さの中、想いを寄せる相手が気掛かりだということを美しい声で歌い上げていく。清春いわく、自分の中に生まれた“人間愛”が込められているとか。