ミニ・レビュー
手嶌葵の第1弾で、彼女が主題歌及びテルーの声を担当した映画『ゲド戦記』のイメージ・アルバムでもある。素朴なメロディ・ラインと生楽器中心のシンプルな伴奏、何よりやや舌足らずにも聴こえる少年のような中性的な声が、ファンタジックな感興を呼ぶ。
ガイドコメント
ジブリ映画『ゲド戦記』で“テルー”の声を演じた手嶌葵の1stアルバム。デビュー曲となった同映画挿入歌と主題歌の歌集ヴァージョンをはじめ、映画をイメージした楽曲を収録。素朴で温もりのある歌声が魅力。
収録曲
01数え唄
日本古来からある「数え唄」をテーマに作られたオープニング・チューン。一切のアレンジが施されておらず、手嶌葵の声のみで綴られ、神聖な雰囲気が漂う。静寂のなか、汚れのない澄んだ歌声が物語の始まりを告げるようだ。
02竜
塩谷哲のピアノをバックにした簡素なアレンジが潔い。あくまで手嶌葵のヴォーカルに色付けをするように、優しくそっと背中から支えているような“歌伴(うたばん)”の手本のようなピアノが素晴らしい。もちろん、神聖な雰囲気が漂うヴォーカルも魅力的。
03黄昏
情景が浮かぶような幻想的な歌声や耳元でささやくような歌唱スタイルは、眠りを誘う子守唄のよう。山弦の小倉博和を中心としたアレンジも魅力で、ややエスニックな雰囲気を感じる、無国籍風なサウンドが展開されていく。
04別の人
アルバム『ゲド戦記歌集』に収録の、ワルツ・スタイルの比較的ポップなナンバー。純粋無垢な歌声には子供らしさがあふれている。バックにはジャズ・ギタリストの天野清継が参加し、ジャズならではのスウィング感を導入している。
05旅人
耳に馴染むポップなメロディの上で、旅人の心の哀しみを描く歌詞が心に染みるナンバー。物語を綴るように歌う手嶌葵のヴォーカルが切ない。少ない楽器でも豊潤なサウンドを構築できる見本といえる、奥行きのあるサウンドが魅力だ。
06ナナカマド
童謡のようなシンプルで覚えやすいメロディに、それを包み込むような情感あふれるヴォーカルが美しく映えるナンバー。天野清継が参加して、ジャズならではのスウィング感を醸し出している。ナナカマドとはバラ科の植物のこと。
07空の終点
アルバム『ゲド戦記歌集』のほとんどを作曲している谷山浩子のカラーが強く出た、フォーキなナンバー。ここでの手嶌葵の透明感たっぷりのヴォーカルは、バックのアコースティック・ギターを忘れさせてしまうほどの存在感を誇っている。
08春の夜に
心に自然に入り込んでくるような優しさと心地良さを持つ歌声が素晴らしい。アイルランド音楽では多く用いられる楽器、ティン・ホイッスルがフィーチャーされたことで、ヨーロピアンな雰囲気が漂う仕上がりとなっている。
09テルーの唄 (歌集バージョン)
宮崎吾朗監督アニメ映画『ゲド戦記』劇中挿入歌のアルバム・ヴァージョン。生活での疲れを洗い落としてくれるような、何色にも染まらない清冽で優しい歌声が絶品。ア・カペラで歌われる前半部では、手嶌葵の魅力が存分に伝わり、唯一無二の魅力を放っている。
10時の歌 (歌集バージョン)
宮崎吾朗監督アニメ映画『ゲド戦記』主題歌のアルバム・ヴァージョン。朴とつとしたなかにも華麗さが垣間見られる、艶のあるヴォーカルが素晴らしい。語りかけるような歌声でアルバム『ゲド戦記歌集』の幕を閉じる。シンガー・ソングライターの新居昭乃による作品。