ミニ・レビュー
結成10周年。くるり、初のベスト盤。これぞくるり、これがくるり。優しくて人懐こくてロマンティックで男の子で泣き虫でやんちゃで。映画『リアリズムの宿』テーマ・ソング「家出娘」(初CD化!)がうれしい。初回限定盤のみレア未発表音源4曲を収録した3枚組。★
ガイドコメント
くるり、初のベスト・アルバム。シングル全17曲を完全収録したうえ、初CD化となる映画『リアリズムの宿』テーマ・ソング「家出娘」や、アルバム未収録曲なども聴ける豪華絢爛な内容。
収録曲
[Disc 1]
01ワンダーフォーゲル
くるりのキャッチーなサウンドが爆発したようなナンバー。といっても、決して明るさだけというのが彼らの持ち味で、凄みのある暗さがかっこいい。テクノロジーを味方につけた彼らの「さわやか」なイメージとは無縁に加速していく曲。
02ばらの花
それまで一部のファンのみに認知される存在だったくるりの名を一般に浸透させるきっかけとなった、4thアルバム『TEAM ROCK』からのシングル曲。落ち着いたテンションで淡々と歌う岸田繁のヴォーカルが心に染みる。
03虹
デビュー当時のREMが持っていたような雰囲気が漂う2ndシングル。ピアノやオルガンが入るが、あくまで荒削りなギター・サウンドが軸。歌詞は「涙枯れた六地蔵」といった世界だが、おとぎ話風まではいかない懐かしい風景が思い出される。
04ワールズエンド・スーパーノヴァ
アルバム『THE WORLD IS MINE』収録のダンサブルなロック・ナンバー。一聴すると無感情で平坦なダンス・ミュージックという印象を受けるが、ストレートな感情の吐露を思わせる歌詞は聴き手の心を揺り動かす。
05THANK YOU MY GIRL
ブリティッシュ・ロック風のコーラスが印象的なナンバー。初期のスミスが持っていたような曲者の雰囲気には、オールド・ファンをもうなるだろう。ヴォーカルがオフ気味に鳴っていて、別れの歌なのに湿度を感じさせない演出になっている。
06BABY I LOVE YOU
誰もが持つ心の片隅で色褪せない、青春時代の淡い恋が蘇る。流麗で繊細なメロディに乗せて、「Baby I Love You」というストレートな言葉が、純粋で一途な十代の不器用さのようで、甘酸っぱく切ないラブ・ソングだ。
07ハローグッバイ
淡々とした岸田繁の声がファルセットになって感情を帯びると、誰もが胸をしめつけられるはず。2002年5月リリース・シングル「男の子と女の子」のカップリング曲は、シングル・カットされてもおかしくない完成度の高い作品だ。
08春風 (Alternative)
岸田繁が優しく歌うアコースティック・チューンの5thシングル。美しいサビのメロディと「です」で結ばれる歌詞が特徴。はっぴいえんどが持っていたような切なさも感じさせてくれる世界は、聴けば聴くほど味が出てくる。
09ナイトライダー (QURULI Ver.)
冒頭の「ここで待ってる五万年」の詞から怒涛の勢いで襲い掛かってくるかっこいい言葉たち。サビの脇を固めるバンジョーや裏拍で入るギターの単音フレーズに、くるりの天賦の才が見え隠れする。つまらない日はこの曲が助けてくれる、といえるナンバー。
10リバー
大ヒット・アルバム『TEAM ROCK』に収録された、カントリー調のメロディにいつもとおり朴訥とした雰囲気のヴォーカルを乗せたキャッチーなナンバー。ストレートな歌詞も相まって単純明快な佳曲。
11ハイウェイ
映画『ジョゼと虎と魚たち』の音楽を担当したくるりによる同映画の主題歌。柔らかいストリングスと優しいヴォーカルが良く合う。どうにも煮え切らないリアルな歌詞が胸にズシンと響く理由なのだろう。
12飴色の部屋
琴のような音も入る多彩な音色のギター・サウンドとコーラスが絶妙にからみ合い、シャッフルと8ビートが行き交うアレンジに緊張感が漂う。妻夫木聡主演映画『ジョゼと虎と魚たち』サントラに収録も、濃密な楽曲ゆえ、どの場面で使えるのだろう? と思える曲。
13赤い電車 (ver.金沢文庫)
おしゃべりしているようなベース・ラインや思わず口ずさみたくなるメロディが、電車の中を駆け巡るようにスピーディな、彼らの真骨頂といえるナンバー。京浜急行電鉄CMとなったシングル曲を、京急の駅名からとったヴァージョン名でリミックス。これで満員電車も楽しめるはず。
[Disc 2]
01水中モーター (Jam Remix)
バンド・サウンドを否定するようなプログラミング音楽にくるりの勇気を感じる。原形をとどめないヴォーカルのエフェクトが、見事にメロディの良さを引き出している。子供のつぶやきもお遊びっぽいが、これがなければ味気ないと思わせる手腕はさすが。
02ロックンロール
新しいドラマーのクリストファー・マグワイアを迎えて発表した5thアルバム『アンテナ』からのシングル曲。電子音やエフェクトを多用した前作までとは一転し、バンド初期に戻ったかのようなロック・ナンバー。
03東京
1stアルバム『さよならストレンジャー』収録曲。ギターのイントロが印象的なロック・ナンバー。上京した人なら誰もが抱く郷愁を、くるりらしく訥々と、しかし心に突き刺さる鋭さをもって表現している。
04青い空
ゴリゴリ音のベースがギターよりロックしている、8ビートの3rdシングル。ジャムのようなパンク・サウンドを見せているが、後半のリズム・チェンジやエンディングの変拍子になる展開には、単なるロック・バンドではない“ひとクセ”ある彼ららしさが表われている。
05リボルバー
8thシングル「リバー」のカップリングとなった、恐ろしく速い8ビートのナンバー。歌がなくなり、楽器の音数も減るBメロ以降は、抜けの良いスネアの音が腹に迫ってきて、疾走感をいっそうにあおっていくようだ。
06男の子と女の子
小さな抑揚を持ちながら岸田繁のつぶやきが淡々と続いていく、2002年リリースの10thシングル。グリーン・デイを彷彿とさせる、美しい歌メロを活かすためのシンプルな演奏に、楽曲の良さが詰まっているのがわかる。この曲には、ギンギンのギターなどは無用だ!
07BIRTHDAY
ステレオから色彩豊かな幸福感が飛び出してくる。軽快なドラム、跳ね回るベース、煌くギター、温かみのあるアコーディオン、透き通ったヴォーカル。どこを切り取っても、鮮明な輝きを見せる珠玉のナンバーだ。
08SUPERSTAR
ごちゃごちゃしたストレスで弱った心に効く特効薬がここに。さらっと深い部分まで染み入るヴォーカルとギターのアンサンブルの精妙さ、躍動的でドラマチックなリズムが爽快感を起こし、この上なく気持ちいい。
09尼崎の魚
ジェリーフィッシュのようなパワー・ポップの佇まいだが、激しいリズム・チェンジにはプログレッシヴ・ロックの要素も感じられる。にぎやかなシンバルが何とも初々しい、一発録りのような一体感を感じる1stシングル「東京」のカップリング・ナンバー。
10街
2002年にバンドを離れた森信行とベーシストの根岸孝旨のツイン・ドラムが迫力いっぱいの、4thシングル。サウンドはビートルズ風で、岸田繁のヴォーカルはジョン・レノンのよう。「街」とは彼らの出身である京都のことだろうか。
11サンデーモーニング
Aメロが奥田民生を思わせる、99年リリースの3rdシングル「青い空」のカップリング曲。くるり特有の低音イコライジングのギターと岸田繁のぶっきらぼうなヴォーカルは健在。サビにあまり毒がなく、くるりらしくない曲だが、キャッチーなサウンドだ。
12家出娘
つげ義晴原作の映画『リアリズムの宿』のテーマ・ソング。アコーディオンがとても切なく、辛らつなメロディはいつまでも心に残るだろう。これほどメロディの個性がはっきりしている曲も珍しいといえるナンバー。
13HOW TO GO
5thアルバム『アンテナ』収録の、バンド初期を思い出させるストレートなロック・ナンバー。モラトリアムな自分と現実の社会で生きることのギャップという、若者なら誰もが突き当たる壁をテーマにした青春ソング。
[Disc 3]
01怒りのぶるうす
「ぶるうす」=「ブルース」ではないことは、Aメロを聴けばすぐ分かるだろう。くるりはブルースをやってもドアーズのように一筋縄ではいかないバンド。激しい怒りまでは感じないが、岸田繁がジム・モリソンのようなシャウトを聴かせてくれる。
02GIANT FISH
タイトルの「FISH」は意図的? と思わせる、彼らが愛するジェリーフィッシュの要素がちりばめられたナンバー。ノイジーなギターとディストーションの効いたベース音が、ノスタルジーを誘う。98年のデビュー以前に録音された、サイケデリック・ロック。
03さっきの女の子
生っぽいバンド・サウンドが楽しく、浮き立つ2ビートに乗って岸田繁の“鉄道ファン魂”が炸裂。スタンダードなビートを刻みながらも、スタッカートとレガートを使い分けたベース・ラインによって、サウンドにメリハリをつけているところはさすが。
04人間通 (にんげんつう)
人間不信の表われか、「人間通!!」と岸田繁が叫びまくるノイジー・サウンド。食い物ぐらいじゃまぎれないレコーディングのうっぷんを晴らしたのかと思わせる、イコライジング無視の楽器鳴らし放題の演奏は、電車や車でリスニングには不向きかも。