ミニ・レビュー
約2年半ぶりのアルバムで、大友良英、ヤン富田、ジム・オルークがプロデュース。アコギ、ハープ、笙、電子音などが神経質にポツポツと鳴り、カヒミの楽器的ヴォイスや朗読とともに、異次元的な音響空間を築いている。新世代のエクスペリメンタル・ポップといえるか。★
ガイドコメント
映画に出演するなど活動の場を広げるカヒミ・カリィの、前作から約2年半ぶりとなるアルバム。ジム・オルーク、ヤン富田、大友良英という豪華プロデューサー陣とのコラボが実現した注目作だ。
収録曲
01呼続
不思議であやしい雰囲気に満ちた、実験的要素の高い作品。不協和音気味の雑音をバックに繰り広げられるフレンチ・ポップ版スポークン・ワーズ。かすかに聴こえてくる鼻唄のリフレインが、奇妙さを増大させている。
02I'm in the rain
透明感のあるコーラスと繊細なアコースティック・ギターのアルペジオが印象的なナンバー。シンプルなサウンドではあるが、声や息づかいの巧みな表現力によって、聴く者を飽きさせない工夫が施されている。
03All is splashing now
効果音としてではなく、あくまで楽器として水のさまざまな音を使用した、非常にユニークな作品。「水しぶきをあげて花が咲き乱れる」とあるように、生命の胎動を感じさせる神秘的な雰囲気が曲全体に漂っている。
04He shoots the sun
太陽に立ち向かおうとする少年を題材とした神話のような歌詞や曲全体に流れる悲しげな雰囲気は、どことなくギリシャのイカロスを思わせる。幻想的なアコースティック・ギターのアルペジオと神秘的なシンセ音が印象的なナンバー。
05Le cheval blanc
重厚なチェロの音色と伸びやかなヴァイオリンの響きが幻想的なアコースティック・ナンバー。パーカッションが生み出すさまざまなサウンドを、楽器というよりも曲のストーリーに合わせた効果音として使われているのが面白い。
06Night train
「夜行列車の通り過ぎる音」が少女に一つのイメージをもたらした。「タイムマシーンで幼い頃の自分に会いに行く」……そんな不思議な世界観とギターやパーカッションによる幻想的な音が見事に融合した、まどろみで全編を包み込むような作品だ。
07そのほかに
物憂げで幻想的な雰囲気を持ったハープの音色や、ため息にメロディをつけたかのようなウィスパー・ヴォイスのハミングが印象深い、インストゥルメンタル・ナンバー。歌詞がないにも関わらず、感情の動きを声で表現するカヒミの力は素晴らしい。
08太陽と月
歪んだギターと不思議な音色の民族打楽器、そして石と石を擦り合わせた音による、奇妙な雰囲気に包まれた作品。気まぐれのようにリズムやテンポを変化させていく、あやしげなサウンドと淡々と語りかける声とのギャップが、呪術的な不気味さを醸し出している。
09Mirage
ギターとベースのグルーヴ感とピアノとパーカッションによる郷愁的な雰囲気が渾然一体となったナンバー。躍動感に満ちた情熱的なベース・ラインと淡々とした無機的なヴォーカルとのギャップが、不思議と新鮮な輝きを放っている。
10CAMELIA
英語からフランス語、そして中国語と、次々に移り変わっていく言葉の響きが斬新なスポークン・ワーズを用いた作品。特にフランス語の曲線的なイメージと中国語の持つ鋭角的な語感のギャップが、新鮮で楽しい。
11Plastic bag
ビニール袋が風に舞うさまをダンスに見立てる寂しげな歌詞が秀逸な、哀愁漂うアコースティック・ナンバー。ただのゴミを擬人化してキュートで切ないストーリーを持たせるあたりに、カヒミ・カリィの詩人としてのセンスが光っている。
12You are here for a light
国籍不明のスポークン・ワーズ。遅回しなブリット・ポップにヴィブラフォンや民族楽器を加えたような、つかみどころのないサウンドが印象深い。チェロとヴァイオリンの幻想的な響きが、作品の不思議さを増大させている。
13歩きつづけて
アコースティック・ギターのシンプルなサウンドを基調とした、キュートなポップ・チューン。口笛やコーラスで参加している子供たちの声がかわいらしく。特にサビでユニゾンになる部分は、なんとも微笑ましい。