ミニ・レビュー
『グエロ』以来のオリジナル作。ナイジェル・ゴドリッチをプロデューサーに、ジェイソン・フォークナーやジョーイ・ワロンカーらをゲストに、とお馴染みの顔触れで完成。意外性はないがユーモラスなアレンジを施したメロウでイビツな音像が楽しめる。
ガイドコメント
前作『グエロ』から約1年弱での発表となった本作は、プロデューサーに大御所ナイジェル・ゴドリッチを迎え、BECKの持つクリエイティヴさをよりパワーアップさせた会心作。しかもファン垂涎のDVD付きだ。
収録曲
[Disc 1]
01ELEVATOR MUSIC
低くうなるベース・ラインに細かく刻まれるドラム、そして気まぐれに入るシンセサイザーが初期のベックを彷彿とさせる。ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースによる、より進化したロック・サウンドが聴きものだ。
02THINK I'M IN LOVE
恋に臆病な男を描いた、ベックらしいセンシティヴな楽曲。流れるように繰り出されるベックのリリックには惚れ惚れしてしまう。実の父親が担当したというオーケストラの入りも絶妙で、ベック・ワールドにしっかりと花を添えている。
03CELLPHONE'S DEAD
現代社会を風刺するかのようなヒネリのあるリリックを淡々と歌うベックのラップ。それだけでも満足なのだが、さらにナイジェル・ゴドリッチとともに作り上げた隙のないプログラミングが見事。実験的な音のコラージュにみられる遊び心が楽しいナンバーだ。
04STRANGE APPARITION
サンバ調のパーカッションにのせて歌われる深みのあるベックのヴォーカルは、デビューから10年を経てもまだ成長を感じさせる。自問自答を繰り返し自らを省みているかのような歌詞には、自分に正直に生きてきた彼の姿が見て取れるようだ。
05SOLDIER JANE
ジョーイ・ワロンカーによる軽快なドラミングを軸に、シンセサイザーが響きわたり無限に広がる空間を作り上げる。時折重みのあるサウンドをかき鳴らすアコースティック・ギターは、雷鳴が脳天を直撃したかのような衝撃だ。1つ1つの楽器を効果的に演奏するベックの腕に感心させられるナンバー。
06NAUSEA
ベックの挑発的なヴォーカルが印象的な楽曲。重く沈むようなベース・プレイが自虐的でダウナーな詞と見事にリンクし、暗澹とした世界観をいっそう具体化している。強い後味を残す展開の妙に凄みが感じられるプロデュースは、ナイジェル・ゴドリッチによるもの。
07NEW ROUND
さまざまなサンプリングを施した音作りは、いかにもベックとナイジェル・ゴドリッチが組んだ作品といえる。静かに語りかけるようなベックのヴォーカルは、温もりあるアコースティック・ギターと相まって心に安らぎをもたらしてくれるようだ。
08DARK STAR
ダークで怪しげなベース・ラインにのせたラップは、クールでヘヴィ。ブルースからエレクトロ、オーケストラの要素まで盛り込んでくるところが、ベックのアイディアの面白さ、センスの高さを証明している。それらがしっかり融合して、まるで魔法がかかっているかのような1曲だ。
09WE DANCE ALONE
本格的なラップに挑んだ作品。無機質なリリックの羅列がクールに響くが、一筋縄ではいかないのがベックの世界。シンセサイザーや鈴の音などの細かなサンプリングが枠組みを飾り、他にはないポップなラップ・ナンバーに仕立て上げている。
10NO COMPLAINTS
想像力を煽る不可思議な歌詞、古ぼけた触感を残すアコースティック・ギター、場違いな明るさを持って導入される電子音など、つかみどころのなさが楽しい作品。それらを1つの作品にまとめるところに、計算されたプロダクションの妙が感じられる。
111000BPM
アグレッシヴに繰り出されていくラップは、今までのベックにはなかった新しい一面。タイトにまとめられたサウンドは、社会性の強い彼のメッセージをしっかりと表現するのに十分で、聴き手を圧倒する力を擁している。
12MOTORCADE
ベックの穏やかで人間味あふれるヴォーカルとナイジェル・ゴドリッチの得意とするエレクトロ・サウンドとが見事に溶け合い、新たな魅力を放っているナンバー。特に、シンプルながらも隙間を作らないナイジェルの仕事は、見事の一言だ。
13THE INFORMATION
力強いドラムが心躍らせるロック・ナンバー。気の抜けたようで、突然に鋭さを見せるベックのヴォーカルが印象的。イギリス現代社会のよどみというテーマを、鋭い洞察力を持った彼らしいアイロニーで見事に表現しきっている。それを助長するサウンド・プロダクションも素晴らしい、渾身の作。
14MOVIE THEME
温かみのあるシンセサイザーが作り出す神秘的な空間のなかで、自分自身にゆっくりと語りかけるようなベックのヴォーカルが響きわたる。暗いトーンに陥りがちな、内省的な歌詞とリンクしたサウンド・メイクも、優しさを忘れずに施すベックのセンスが活きた温感が感じとれるものとなっている。
15THE HORRIBLE FANFARE|LANDSLIDE|EXOSKELETON
不穏な響きが特徴的なベース・ラインと奇抜なリズムを刻むドラム。10分にも及ぶ楽曲ながら、聴き手を飽きさせることのない音のコラージュと予測不可能な曲展開は、さすがベックとナイジェル・ゴドリッチが組んだ作品といえる。その完成度につい溜め息がこぼれてしまう。
16INSIDE OUT
『ザ・インフォメーション』の日本盤ボーナス・トラック。気分を高揚させるアップ・テンポなパーカッションに重低音ベースが重なり合い、堂々と闊歩するベックのヴォーカルを引き立てている。細かな音作りに、ベックの職人肌な一面が感じられるナンバーだ。
17THIS GIRL THAT I KNOW
ファンキーなギター&ベースとノリノリのラップが初期のベック・サウンドを彷彿とさせる、『ザ・インフォメーション』の日本盤ボーナス・トラック。折り重なるパーカッションと時々ユーモアを持って鳴らされるホーンが、サウンドに厚みをもたらせている。
18O MENINA
乾いたアコースティック・ギターに重たいベースが絡み合う、『ザ・インフォメーション』の日本盤ボーナス・トラックとして収録されたナンバー。シンプルな作りの中にも、さまざまな音のサンプリングで聴き手を楽しませることを忘れない、ベックのサービス精神が嬉しい。
[Disc 2]〈DVD〉〈イメージ・ビデオ〉
01エレベーター・ミュージック
02シンク・アイム・イン・ラヴ
03セルフォンズ・デッド
04ストレンジ・アパリション
05ソルジャー・ジェーン
06ナウジア
07ニュー・ラウンド
08ダーク・スター
09ウィ・ダンス・アローン
10ノー・コンプレインツ
111000BPM
12モーターケイド
13ザ・インフォメーション
14ムーヴィー・テーマ
15ザ・ホリブル・ファンファーレ〜ランドスライド〜エクソスケルトン
16インサイド・アウト
17ディス・ガール・ザット・アイ・ノウ
18オー・メニナ