ミニ・レビュー
米国ヒップホップ/同派生文化の重要人物の一人、旧名ショーン・パフィ・コムズの5年ぶりとなるリーダー作。一般性も持ちえる整合感の高い多彩なトラックに、構えず声を投げ出す。クリスティーナ・アギレラからジェイミー・フォックスまでゲストがいろいろ関与。
ガイドコメント
ヒップホップ/R&Bシーンを常に牽引してきたBAD BOYレーベルの総帥にして、アメリカ音楽界における最重要人物の1人、P・ディディ(元ショーン・パフィ・コムズ)の約5年ぶりとなるアルバム。クールかつアグレッシヴに攻める、魅力的なトラックが満載だ。
収録曲
01TESTIMONIAL
ピアノのループ・フレーズはティアーズ・フォー・フィアーズの「ヘッド・オーヴァー・ヒールズ」のイントロから。80'sのヒット曲からネタを持ってくるのはP.ディディの常套手段で、ファンならニヤっとするアルバム『プレス・プレイ』の幕開けだ。
02WE GON' MAKE IT
この曲を聴くと、ラップにおいてカニエ・ウェストがP.ディディからたくさん“いただいている”のが分かるはず。内容はビル・ゲイツ、不動産王ドナルド・トランプ、メディア王ブルームバーグを引き合いに出した、「俺って金持ち宣言」。
03I AM
ドラムはプリンスの秘蔵っ子、ジョン・ブラックウェル、キーボードはマリオ・ワイナンズと、短いインタールードとはいえ豪華な共演が楽しめる。ネタはルー・ロウルズの「YOU'VE MADE ME SO VERY HAPPY」。
04THE FUTURE
歓声がループするオリジナル・トラックのラップというよりは語りの曲。P.ディディの興味の対象は「俺」で、その“俺唯一主義”が延々と語られる、ヒップホップの伝統の「自慢大会」が披露されていく。キングはルーツにいつも忠実だ。
05HOLD UP
曲の大部分をアンジェラ・ハントに任せる、P.ディディの余裕が垣間見られるダーク・チューン。冒頭のフレーズ「子供の歌が好きなんだ」の通り、変声期前の子供のコーラスがサビになっている。ネタはジェリー・ピーターズの「WHITE SHUTTERS」。
06COME TO ME
アルバム『プレス・プレイ』からの精緻な音作りが垣間見える1stシングル。プッシー・キャット・ドールズのフロント・アイコン、ニコル・シャージンガーがクールなヴォーカルでリード・フレーズをとる、ヒット・ポテンシャルの高い曲だ。
07TELL ME
2006年の“ハヤリ”であるアラビック音階のループ・フレーズにのって、フィーチャリングのクリスティーナ・アギレラが躍動する。リズムよりヴォーカルが大きいヒップホップには珍しいミックスは、ジャスト・ブレイズのプロデュースによるもの。
08WANNA MOVE
節つきのラップがリズム・セクション以上にリズミカルな派手めのナンバー。ビッグ・ボーイ、スカー、シアラをフィーチャーし、デンジャをプロデュースに迎えている。これだけの面々を揃えられるのはP.ディディならではで、名前だけで脅せるお徳曲だ。
09P.DIDDY ROCK
オリジナル・シンセが印象的なスペイシー・サウンド。同じ音階で男(P.ディディ、ツイスタ、ティンバランド)がいっせいに歌う唱法がド迫力に響く。プロデュースはネリー・ファータド「LOOSE」の大ヒットに貢献したデンジャだ。
10CLAIM MY PLACE
坂本龍一作風を思わせるゆるやかで洗練されたアプローチによるミュージカル風演出が肝。P.ディディの語りをアディショナル・ヴォーカルが見事に囲んだナンバーで、個々のメロディがしっかりと粒立ちしている。3分あるインタールードも、まったくだれることはない。
11EVERYTHING I LOVE
強烈なリズムと野太いベースが迫り来るパワフル・チューン。ナールズ・バークレイ「クレイジー」の大ヒットをとばしたシー・ローに“頼れる兄貴”のナズがフィーチャリング参加。プロデュースに徹するカニエ・ウェストの秀作だ。
12SPECIAL FEELING
リズムとサウンド・アプローチはプリンスからのいただきものだが、P.ディディとウィル・アイ・アムの2人だけによるソングライト&プロデュースが光るナンバー。フィーチャリングのミカ・レットの洗練された歌が、素晴らしく曲にマッチしている。
13CRAZY THANG
リッチなストリングスとジャズ・ドラムにのるゆったりとしたサウンドの上で、男2人と女による本音の駆け引きが展開する内容のインタールード。音楽なら何でもござれの演出に、P.ディディのヒップホップにとらわれない器の大きさを感じる。
14AFTER LOVE
16分音符でアクセントをつけるベースとパーカッシヴなシンセが心地よい、ティンバランドのプロデュース作品。さまざまな音色を駆使して歌うKERIのサポートを受け、P.ディディがゆったりとしたラップを披露している。
15THROUGH THE PAIN
80年代のコンテンポラリー・ヒットの香りが漂うメランコリックなナンバー。本曲のプロデューサーでもあるマリオ・ワイナンズが曲の大部分をこもったファルセット唱法で歌いまくるが、要所で登場するP.ディディの存在感にはさすがに脱帽だ。
16THOUGHT YOU SAID
P.ディディの新境地と言える、ストリングスが美しいドラムンベース・ナンバー。ブランディが憂いを持った素晴らしい歌声を聴かせてくれる。マリオ・ワイナンズがアディショナル・ヴォーカルで家族まで参加させた、渾身のプロデュース作品。
17LAST NIGHT
プリンス風のひねた16ビートの世界が楽しめる、マリオ・ワイナンズのプロデュース作品。ハスキーで情熱的に歌うキーシャ・コールは21世紀のシーラ・Eといった雰囲気。P.ディディが珍しくメロディアスなフックを担当している。
18MAKING IT HARD
泣く子もだまるメアリーJ.ブライジの登場とあってか、P.ディディも正攻法のラップで応戦し、2人の丁々発止が楽しいナンバー。ハイトーンのホーン・ループは、ハンツ・デタミネーション・バンドの「I NEED LOVE」からの引用だ。
19PARTNERS FOR LIFE
リッチでファッショナブルなヒップホップが、P.ディディには良く似合う。八面六臂の活躍を見せるジェイミー・フォックスが自在なスキットでサポート。洗練されたプロデュース・ワークはファレル擁するネプチューンズだ。