ミニ・レビュー
3年ぶりの、セルフ・プロデュースによるフル・アルバム。バンドではないユニットの強みで、楽曲に寄ってアレンジはさまざまでカラフル。力みのない、余裕も感じられる成熟した大人のポップス。リラックスして聴くもよし、ぐーっと集中して聴くもよし。
ガイドコメント
それぞれのソロ活動を経て発表される、約3年ぶり通算6枚目のアルバム。メロウなバラードからR&B、エレクトロニカ、アーシーなソウルまで、ヴァラエティに富んだサウンドがちりばめられたポップな作品となっている。
収録曲
01Golden harvest
従来のキリンジのイメージをぶっ壊すほどの衝撃的な打ち込み曲。表面的な技法は変わっても、美しいメロディやクオリティの高いサウンド、遊び心と毒に満ちた歌詞など、彼らの持ち味はもちろん健在だ。この曲でキリンジにあらためて惚れ直す人も多いはず。
02自棄っぱちオプティミスト
浮遊感漂うデジタル・サウンドや無機質で透明感のあるヴォーカルが見事にハマった、ミディアム・テンポのAOR。彼らお得意の皮肉と逆説に満ちた詞をクールに歌い上げている。サビの巧みなコーラス・ワークが心地いい。
03柳のように揺れるネクタイの
踊れて泣けて考えさせられる、という不思議なナンバー。メロディアスでアダルトな雰囲気が漂うAメロ・Bメロと、80年代ダンス・ポップを彷彿とさせるサビとのギャップがインパクト大。シリアスな中にも独特なセンスが光る歌詞にも注目だ。
04アメリカン・クラッカー
シンプルな打ち込みとアコギを基調としたスロー・ナンバー。起伏の少ない単調なリフレインに重ねた無機質なコーラスが、気だるくも心地いい。曲全体を包むダウナーな雰囲気のなかで、チープなポップコーン・サウンドが良いアクセントになっている。
05鼻紙
ほのぼのとしたアコーディオンとシタールの音色に象徴されるような、温かい雰囲気にあふれたメロディアスなバラード。楽曲としての完成度の高さと、鼻紙と書いて「クリネックス」と読ませるタイトルのギャップが面白い。
06ロープウェイから今日は
全編打ち込みによるデジタル・サウンドでありながら、牧歌的な雰囲気が漂う脱力ポップ・チューン。ヨーロッパの山村の子供たちが口ずさんでいそうな、ほのぼのとしたメロディは、シンプルな分だけクセになりそうだ。
07CHANT!!!!
サッカーの応援にも採り入れられているチャント(応援コール)にキリンジ独自の解釈を加えた、不思議な雰囲気が漂う曲。手拍子と打楽器による極めてシンプルな構成のなか、無機質な電子音のリフレインが何とも言えない味を醸し出している。
08ロマンティック街道 (Album Ver.)
シリアスさとチープさが入り混じった不思議なデジタル・サウンドが印象深い、アップ・テンポのディスコ・ナンバー。不穏な雰囲気を醸し出す電子音に絡まる無感情ともいえるヴォーカルは、一度聴いたら耳から離れない。
09愛しのルーティーン
明るい曲調と陽気なホーンが楽しいポップ・ソング。失恋のショックを「いつもと同じ」毎日を愛することで乗り越えようとする男のストーリーだが、皮肉や毒が得意なキリンジだけに、前向き過ぎる歌詞が逆に気になってしまうかも。
10Lullaby
ムーディでメロディアスなスロー・バラード。シンプルで力強いドラムのリズムと抑え気味のホーン、そしてキメの細かいヴォーカルが見事に調和している。サビの「ラララ……」のリフレインが、脳裏に焼きつく中毒性を持っている。
11Love is on line
これぞキリンジの真骨頂! といえる、ドラマティックな美メロとヴェルヴェットのようなヴォーカルがたまらない珠玉のバラード。繊細なピアノとストリングスの音色にファルセット・ヴォイスが絡まるサビは圧巻。バラード好きは必聴の1曲だ。
12ブルー・バード (Alubm Ver.)
非常にシンプルな構成ながら、宇宙的な浮遊感と壮大なスケール感を合わせ持った、ミディアム・テンポのポップ・ナンバー。力強く刻まれる打ち込みのビートと生楽器が生み出すうねりが、透明感のあるヴォーカルを引き立てている。
13影の唄
2005年にiTMS限定で配信されて話題になった、渋いスロー・ナンバー。キリンジとビッグバンド・ジャズの取り合わせは、ヴォーカル、ソング・ライティングともに予想以上のハマりっぷり。ジャズ風ポップスではなく、あくまでジャズとして聴ける曲だ。