ミニ・レビュー
宝野アリカと片倉三起也からなるユニット、ALI PROJECTは、そのゴシックな美意識で孤高の存在となりつつある。このアルバムでも、多用されるストリングスとせつなげなヴォーカルが妙に退廃的で、独自な世界観を構築している。★
ガイドコメント
2006年12月発表のオリジナル・アルバム。新旧のオリジナル・ナンバーやカヴァー曲を、ストリングス+ピアノでリアレンジ。優美さと残酷さを伴った独特のサウンドと、宝野アリカの個性的なヴォーカルが魅力だ。
収録曲
01ロマンス (Instrumental)
4分を超える、ストリングスのみによるインストゥルメンタル。とはいえ、大げさな雰囲気があるわけではなく、メルヘンに満ちた可愛らしい世界観が特徴。彼らの持つクラシックの素養を十分に堪能することができる作品だ。
02ビアンカ
人気曲を再アレンジしたワルツで、女の子とそのお気に入りの人形を主人公にした歌詞が独特。幕開けと幕引きを意識したように、本編のワルツを挟んでイントロとアウトロを切り離す構成は、まるでひとつの舞台を見ているかのようだ。
03ダリの宝石店
流麗でゆったりした曲の中で、ふいに転がり込んでくるおどけたピアノが、不思議な倒錯感覚へと陥らせる。全体を通して陰と陽のメロディ・ラインがめまぐるしく入れ替わり、つかみどころがなく不安定な気分になりそうな曲だ。
04La caleche〜春の雪
なにか悲劇的な物語を予感させるようなイントロが、ドラマティックで秀逸。内向的で静けさに満ちた歌詞と彼らならではの美しくも暗いメロディは、「春の雪」のタイトルに象徴されるようなほの暗さを見事に表現している。
05嵐ヶ丘
打ち込み主体のアップ・テンポなナンバーとして人気の曲を、ストリングスで再アレンジ。オリジナルの激しいビートこそ失われているが、弦楽器が放つ重厚な雰囲気を全面に押し出しており、躍動感は少しも損なわれていない。
06楽園喪失
荘厳な雰囲気のスロー・ナンバー。中世ヨーロッパ風のアレンジと奇妙に溶け合う、ヴォーカルの民族音楽のような節回しが特色。間奏部分では、音階を駆け上がっていくヴァイオリンとループするピアノが恐ろしい不安感を煽っている。
07遊月恋歌
クラシックを指向したものが多い彼らの楽曲の中においては、比較的歌謡曲やポップスとしての色合いが強い曲。ファンからは最高峰との呼び声も高いバラードで、美しいメロディと温かみのあるアレンジが素直に沁み入る。
08L'oiseau bleu
大作曲家シューベルトのピアノ曲に詞をつけた作品。完全なクラシックを自分たちの曲として違和感なく消化できてしまうのは、他の楽曲で作り上げてきたALI PROJECTとしての存在感とアレンジ力のなせる業だ。
09さいごの戀
彼らの得意とするストリングス・アレンジによるスロー・ナンバーだが、転調する間奏部分は独特の展開。か細く可愛らしい歌声ながらもどこか狂気をはらんだような扇情的な歌唱が、文学的な詞の世界観をよりいっそう際立たせている。
10今宵、碧い森深く
優しく柔らかいイントロから、Aメロ、ややテンポが速まるBメロ、ワルツのリズムに転調するサビ、と3つのアレンジで構成されている、彼らならではのミディアム・ナンバー。舞踏会での想い人との触れ合いを描いた甘い恋歌だ。