ミニ・レビュー
男性4人組のデビュー・アルバム。ポップなロック・バンドといっていいのだろうが、単純にノーテンキな明るさがあるわけではなく、湿り気や陰影も感じさせ、楽曲によってはスペイシーな広がりもあったりする。タイトルどおりファンタスティックな香りも。
ガイドコメント
APOGEEの1stアルバムは、シングル「夜間飛行」「ゴースト・ソング」「グッド・バイ」を含む渾身の1作。独創的かつ変幻自在なサウンドは、ジャパニーズ・ロックのニュー・スタンダードの誕生を感じさせる。
収録曲
01Let It Snow
デビュー・シングル『夜間飛行』のカップリング・チューン。少し鼻にかかるふんわりしたヴォーカルといろんな想像をかき立てる独特な歌詞が描き出す、ドラマチックな世界。幾重にも重ねたシンセの音色など微細なアレンジへのこだわりが見える。
02ゴースト・ソング
インディ時代の曲を自らの手でセルフ・カヴァーした作品。アタックの効いたドラムと太いベース・ラインから始まるイントロから一転して、サビではシンセサイザーの音色にメンバーによるハーモニーが絡み合う、独創的なアレンジが秀逸。
03流星
「流星」というタイトルどおり、ファンタスティックでスペーシーなサウンドが圧倒的に美しいトラック。スピッツの草野マサムネを彷彿とさせる、ヴォーカル永野亮のイノセントな歌声が、聴く者を優しく包み込んでいく。
04GIRAFFE
クールなリフを繰り返すギター&ベースに、シンセサイザーによる音の粒が緩やかな下降運動を描く。各パートから構成される独特なアンサンブルが聴きどころで、これぞ変幻自在なサウンドを誇るAPOGEEの真骨頂といえるナンバー。
05Reflection
小気味いいカッティング・ギターにのせてドラムがタイトなリズムを刻んでいく、これぞAPOGEE流のファンキー・ミュージック。80年代テイストのグルーヴが腰にくる、最高にゴキゲンでホットなナンバー。
06ロードムービー
水面に波紋が広がっていくように、永野亮のヴォーカルがゆっくりと心に沁みていく至極のバラード・ナンバー。アグレッシヴなドラムと静謐なピアノの好対照な演奏が、ドラマティックな効果を生んでいる。
07夜間飛行 (Album Mix)
APOGEEの記念すべきデビュー・シングル「夜間飛行」のアルバム・ヴァージョン。あらゆるジャンルの音楽を咀嚼してアウト・プットする、彼らの音楽スタイルが垣間見られる、ボーダーレスなインテリジェンス・ロックだ。
08Route Another
ファンキーなカッティング・ギター・サウンドに乗せて、グルーヴィなリズム・セクションが躍動する1曲。「生きづまったらほかの道 行きづまってもやめないで」という歌詞のみがリフレインする構造が面白い。
09P.A.P.E.R.W.O.R.K.
軽やかに展開されるメロディアスなポップ・ソングだが、英詞の内容は密造酒法違反を犯した男と警察のやりとりを描いた意味深なもの。対訳を読み込むとタイトルに込められたアイロニカルなメッセージが分かる。
10グッド・バイ
複雑な構造を持ちながら、あくまでポップな手触りの3rdシングル曲。彼らが得意とする「スペーシーで叙情的なミドル・チューン」という基本フォーマットに、卓越したメロディが付加されているナンバー。
11Mother、I Love You
アルバム『Fantastic』での「Program」への橋渡しを担うインスト・ナンバー。無限の空間を行き来するかのようなアンビエントの響きは、まるでブライアン・イーノの「Music for Airports」を聴いているかのようだ。
12Program
アルバム『Fantastic』のラストを飾るにふさわしい、叙情的でメランコリックなバラード・ナンバー。宇宙をたゆたうかのような浮遊感のあるシンセサイザー・サウンドが、聴き手のイマジネーションを無限に膨らませている。