ミニ・レビュー
先頃、引退を撤回して復帰作を出したジェイ・Zの、最初の3作(96〜98年)からのベスト選曲盤で、UKのみのリリースだった(3)を含む。なぜ最初の3枚が対象かは謎だが、4作目の大ブレイク以降の別格大スター期以前ということかも。未聴の人には重宝。
ガイドコメント
ジェイ・Zの初期ベスト・アルバム。96年の激クラシック・アルバム『リーズナブル・ダウト』を含む、初期3作から人気曲をセレクト。“キング・オブ・ヒップホップ”の名にふさわしい、充実した仕上がりとなっている。
収録曲
01CAN I GET A...
映画『ラッシュ・アワー』のサウンドトラックからシングル・カットされた98年の大ヒット曲。ジェイ・Zのリズムに溶け込んでいくラップに、女性ラッパー・アミルと独特のエッジの効いた声の持ち主であるジャ・ルールがつけるメリハリが心地よい。
02HARD KNOCK LIFE (THE GHETTO ANTHEM)
ブロードウェイ・ミュージカル『アニー』のテーマ曲のフレーズをいただいた98年のヒット曲。無機質に8ビートを刻むシンセ・フレーズがやけに耳に残り、決して「歌わない」ジェイ・Zのラップには、派手じゃなくても曲は売れるんだ、と感心させられる。
03WISHING ON A STAR
L.L.クールJ、マライア・キャリーらを手がけるR&Bの覇者、トラックマスターズのプロデュース作品。エンディングでまったくジェイ・Zが登場しないアレンジに、美しいコーラスのネタをいただいたソウル・グループ、ローズ・ロイスへの敬意が感じられる。
04CAN'T KNOCK THE HUSTLE
メロウで冷たいトラックにジェイ・Zの安定感のあるラップがフィットするスマッシュ・ヒット。ブラック・コンテンポラリーの女王、メリサ・モーガンの「Fool's Paradaise」のフレーズを歌うメアリー・J.ブライジの声が狂おしく響く。
05AIN'T NO NIGGA
フォクシー・ブラウンのポテンシャルが冴えわたるヒップホップ伝統の黒人讃歌。トラックがワウ・エフェクトのかかったベースとドラム・パターンのシンプルなものだけに、ヒップホップと真面目に向き合う4分間といった趣だ。
06RIDE OR DIE
「ライド・オア・ダイ」のフレーズがスタンダードとして定着しているジェイ・Z'sクラシック。ギャングスタ風だった98年当時の生き写しのような内容。この曲を聴いているとリンキン・パークと共演するジェイ・Zは想像しにくい。
07BROOKLYN'S FINEST
ファンキーなピアノのフレーズが変拍子テイストで展開していくリズムに絡む派手な曲。ジェイ・Zと同郷(ブルックリン)のノトーリアスB.I.G.とのコンビネーションが秀逸な作品で、“ビギー”が凶弾に倒れる前年の96年の録音だ。
08IMAGINARY PLAYER
スライド奏法を使い、粘っこいノリを出しているベース・ラインが寂しげに響く曲。リーン&アンジェラのバラード「イマジナリー・プレイメイツ」をほぼいじらずに再現したトラックにのるジェイ・Zのラップは、何とも物憂げだ。
09FRIEND OR FOE
ドラッグ・ディーラーから這い上がったジェイ・Zのストリート・ライフが語られる、1分50秒のトラック。バスドラのみハネたリズムを刻み、リズムとピントがずれたようなホーンの絡みが絶妙な、DJプレミアのプロデュース作品。
10FRIEND OR FOE '98
「フレンド・オア・フォー」のリミックスではなく、まったく別の曲。ヴォーカル・グループ、メイン・イングリディエントの「CAR OF LOVE」からいただいた重厚なループ・フレーズとひたすら単音を弾くギターのブレンドが、晴れやかで楽しい。
11MONEY, CASH, HOES
プロデュースがスウィズ・ビーツ、フィーチャリングはDMXというラフ・ライダーズの狂犬コンビが手がけるヴァイオレンス・サウンド。シンセのグリッサンド・フレーズと不穏な爆音ベースが、ジェイ・Zを包囲しているようなアレンジとなっていて面白い。
12THE CITY IS MINE
グレン・フライのヒット曲「YOU BELONG TO THE CITY」のサビ・フレーズをいただいたスマッシュ・ヒット。「NO DIGGITY」の大ヒットを持つブラックストリートのコーラスと洗練されたリズムが耳をくすぐるシャープな作品だ。
13RESERVOIR DOGS
ザ・ロックス、ビーニー・シーゲル、ソース・マネーを従え、ジェイ・Zが余裕たっぷりにラップを披露する長編作品。アイザック・ヘイズの「シャフト」を借用したエリック・サーモンのプロデュースは、頭の中がワウ・ギターで埋め尽くされてしまうアレンジだ。
14I KNOW WHAT GIRLS LIKE
パフ・ダディ(当時)とリル・キムが参加しているリッチな作品。ラッパーに大人気のヘタウマ・バンド、ウェイトレシーズの「アイ・ノウ・ホワット・ボーイズ・ライク」の脱力フレーズと刀を抜くようなサンプリング音が、心地よく衝突していて良い。
1522 TWO'S
異様な雰囲気のトラックにのせてジェイ・Zがマッチョに「自分の考え」を語っていく曲。パーティ風景の一部が切り取られている演出に、アイディアの豊かさを感じさせる。MCとのやりとりやコール&レスポンスのサビが若々しい。
16MONEY AIN'T A THANG
ヘヴィ・メタルでよく使われるドンシャリ・ベースがアレンジの核となっているキャッチーなヒップホップ。フィーチャリング、プロデュースに名を連ねるジャーメイン・デュプリのライムに合わせたジェイ・Zがラップが面白い。
17DEAD PRESIDENTS 2
情緒不安定になりそうな幻想的なピアノのフレーズが美しいネタは、ロニー・リストン・スミスの「ガーデン・オブ・ピース」。全体的にディレイのかかったサウンドにまったくエフェクトのかかっていないジェイ・Zの声が、三半規管に心地よい。
18REGRETS
シンセサイザーと呼応するメロディアスなベース・ラインが心に響くフュージョン・テイストのナンバー。他のヒップホップでは聴けないアンニュイな空間に、ジェイ・Zのオリジナリティが感じられる。このサウンドで「リグレッツ(後悔)」を語る演出も心憎い。