ミニ・レビュー
『ゲド戦記』の主題歌を歌ったことで、一躍脚光を浴びた女性シンガーのセカンド・アルバム。「テルーの唄」のプレッシャーがあっただろうが、それをみじんも感じさせない“自分だけの歌”へと向かおうとする志はみごと。冒頭の谷山浩子楽曲は必聴だろう。
ガイドコメント
手嶌葵の2ndアルバム。別れと出会いや卒業と旅立ちなどをテーマに、彼女の存在感のある歌声をフルに活かした楽曲が並ぶ。ジブリから離れて真価を問われる試金石となったが、期待を上回る出来ばえだ。
収録曲
01岸を離れる日
98年発表、谷山浩子のアルバム『カイの迷宮』収録曲をカヴァー。少女が大人の女性へと成長していくさまを歌った旅立ちソングだ。ゆったりとした風情は春の小川の流れのようで、柔らかなヴォーカルは温かな日溜りのようだ。
02風の唄
母の声、父の手、風や空など幼いころの思い出の断片を歌ったミディアム・スロー・ナンバー。手嶌葵の声はそれだけで切なさが込み上げる。オートハープやマンドリンが加味されたことで、オリエンタルな雰囲気に。
03徒然曜日
たおやかなピアノの調べに乗せて歌い上げられるのは、徒然なる時の流れだ。高音の美しいウィスパー・ヴォイスがストリングスと絡み合い、和風な世界を盛り上げている。パナソニックWIN携帯のCMソングに起用されたスロー・チューン。
04月のかけら
早朝の空にまだ残る月の情景を、夢への探求心と重ね合わせて歌ったスロー・バラードだ。新居昭乃による楽曲ということで、透明感と憂鬱が交錯する幻想的世界となった。若き日の大貫妙子を思わせるヴォーカルが印象的だ。
05卒業式
3年間を振り返り、過ぎ去った日に別れを告げ、ここまでの道のりに「ありがとう」と感謝する卒業ソング。手嶌葵のフェアリー・ヴォイスだけが伝えることのできる優しさがここにある。涙腺を刺激するスロー・チューンだ。
06花びら
ANAのCMソングに起用されたミディアム・テンポの旅立ちソング。花びら舞う季節の別れが切々と歌い上げられていく。手嶌葵としては珍しくリズム・トラックが加わり、春らしい華やかなイメージの仕上がりとなっている。
07心の調べ
「心の闇の中で光る石……見つければ夢」と、夢を抱くことの素晴らしさ、夢を見出すことの大切さを歌ったバラード。ピアノの音色も柔らかく、ため息交じりのフェアリー・ヴォイスと溶け合いながら、心の琴線に触れてくる。
08願いごと
アイルランド民謡「ロンドンデリーの歌」をベースにしたスロー・チューン。「ダニー・ボーイ」も同曲を基にしているが、それとはまったく異なる仕上がり。スケール感のある子守歌とも呼べる楽曲で、深い母性愛をみごとに表現したヴォーカルが絶品。