ミニ・レビュー
シングル「TEXAS」「The Still Steel Down」を含む3作目。佐野康夫(ds)、沼澤尚(ds)、沖山優司(b)といったミュージシャンによる質の高いサウンドのなかで、70〜80年代のニューミュージックを彷彿とさせる歌が舞う、優しくて儚いポップ・ミュージック・アルバム。
ガイドコメント
ポップス・シンガー、安藤裕子の3rdアルバム。シングル「TEXAS」「The Still Steel Down」などを収録。宮川弾や沼澤尚らと紡ぎ出したサウンドは、優しさにあふれ、溶けるほどにドラマティックだ。
収録曲
01手を休めてガラス玉
しなやかなバンド・サウンドと洗練されたコード・ワークがひとつになったポップ・チューン。いつになく力強いヴォーカルや、愛しい思い出を胸に秘めて前を向いて進んでいこうとする意志を、ストレートに伝えるリリックも印象的だ。
02雨唄
スーパー・ドラマー、沼澤尚を中心にした厚みのあるビートのうえで、触った瞬間に壊れてしまいそうな繊細さをたたえたヴォーカルが舞う。キュートな空気を生み出すコーラスとダンサブルなバンド感が一体となったアウトロも素敵だ。
03TEXAS
本人自ら“男版・あなたと私にできる事”という、切なくて愛らしいラブ・ソング。あまりにも可憐、しかし、きちんと洗練されたメロディ・ラインに普遍的な魅力が宿る名曲だ。聴く人を何気なく励ますリリックも秀逸。
04シャボンボウル
ベースとピアノによるきわめてシンプルなアレンジによって、美しくはかない旋律がしっかりと浮き上がってくるオーガニック・バラード。少しずつ距離ができてしまう“あなた”との関係を詩的に綴った詞も、グッと胸に迫る。
05SUCRE HACACHA
加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)のシックなギター・ワークがリードする、抑制の効いたポップ・ロック・チューン。淡々と言葉を刻みながら、まさにシャボン玉のような透明度の高い色味を感じさせるヴォーカリゼーションが絶品。
06よいこのクルマ
軽快なギターの裏打ち、ふくよかなフェンダー・ローズの音色、楽曲に奥行きを与えるホーン・セクションなど、ラヴァーズ・ロックの要素を取り入れた、軽やかでダンサブルな音像が気持ちいい。ゆらりと身体を揺らしながら聴いてほしい一曲。
07絵になるお話
80年代の良質ポップ、もっといえば“大貫妙子”をはっきりと想起させるポップ・ナンバー。鈴木正人(リトル・クリーチャーズ)と沼澤尚によるリズム・セクションとどこか自虐的なリリックが、意外なほどにしっくりと融合している。
08“I”novel.
ロック・バラード風のイントロ、心地よく疾走していくAメロ、ダイナミックな展開によって聴くものにカタルシスを与えるサビ。実験的な楽曲構成を取り入れながら、その手触りはあくまでもポップ。安藤裕子の特性を端的に伝える佳曲だ。
09安全地帯
ジャズからロックまで幅広いジャンルで活躍する凄腕ドラマー、佐野康夫が生み出すリズムや、生々しいエモーションをたたえながらギリギリのところで上品さを保つヴォーカルが素晴らしい。珠玉と呼ぶにふさわしいミディアム・バラードだ。
10The Still Steel Down
ゆったりとしたメランコリックなバラード。美しいメロディと浸透力のある彼女のヴォーカルが色彩感にあふれた世界を描き出している。カパラの加藤隆志がギターで、カーネーションの矢部浩志、大田譲がリズム隊で参加している。
11Little Babe
安藤裕子の音楽を支えるアレンジャー・山本隆二のアコースティック・ギター1本による、限りなくライヴ・レコーディングに近い楽曲。“Love my self”という切実なメッセージを含んだ詞や、さりげなくも奥深いメロディが胸を打つ。
12唄い前夜
なかなか変われない私だけど、これからも歌を歌って、笑いながら生きていきたい……そんな気持ちをまっすぐに表現した、心地よく温かいポップス。村田陽一(トロンボーン)、山本拓夫(テナーサックス)が参加したホーン・セクションの質の高さに驚かされる。