ミニ・レビュー
ウィル・アイ・アムのプロデュースが話題だが、10年来のつきあいがあっただけに、本人の腰の据わった作風は尊重した仕上がり。“女プリンス”としての実力がわかりやすく伝わりもする。ジャケットのカラスの羽根はジョニ・ミッチェルへのオマージュ?★
ガイドコメント
オルタナティヴ・ソウルを聴かせてくれる女性R&Bシンガー、メイシー・グレイのレーベル移籍第1弾アルバム。旧知の仲であるブラック・アイド・ピーズ・ファミリーとのひさしぶりのコラボなどで、極上のストリート・サウンドを披露している。
収録曲
01FINALLY MADE ME HAPPY
ナタリー・コールをフィーチャーした、ウィル・アイ・アムとロン・フェアとの共同制作曲。メイシーのブルージィなヴォーカルが炸裂したメンフィス風ソウルで、泣かされ続けた男との別れを待ち望んだサバサバとした表情がみてとれる。
02SHOO BE DOO
男に酷い仕打ちをされつつも別れまで踏み切れない葛藤を描いたスウィート・ソウル。プロデュースはジャレッド・ゴッセリンとフィリップ・ホワイト、ロン・フェアで、狂おしいまでの情感で悩ましさを表現したメイシーのブルージィな歌唱には脱帽だ。
03WHAT I GOTTA DO
ジャレッド・ゴッセリンとフィリップ・ホワイトの制作による温もりあるミッド。世界で一番スウィートなベイビーたち(自身の子供たち)へのこの上ない愛情を歌うメッセージ・ソングで、愛しくて仕方がない心情がハートフルな歌唱にもしっかりと表われている。
04OKAY
マーチ風の太鼓と変態的なビートや“ラララ”のコーラスが特色のジョウブレイカーズ(ウィル・アイ・アム&ジャスティン・ティンバーレイク)制作曲。“あんたなんていなくても平気”という男への訣別を、ビクともしない強靱な意志を持った渋みのある歌唱で披露している。
05GLAD YOU'RE HERE
ファーギーをバック・コーラスに迎えての落ち着きのあるミッド・ソウル。“あなたがここにいてくれて嬉しい”と歌う表情は、温かくもあり絞り出すような渇望もあるほど多彩。メイシーのブルージィな歌唱に酔いしれる、ウィル・アイ・アムとロン・フェア制作曲。
06GHETTO LOVE
ジェイムス・ブラウン「マンズ・マンズ・マンズ・ワールド」を配した幕開けが白眉のウィル・アイ・アム制作曲。“ゲットーな恋人がいて最高!”という気持ちがひしひしと伝わる渋みある歌唱と“G・H・E・T・T・O”のコーラスが絶妙なストリート感を生んでいる。
07ONE FOR ME
“一瞬のうちに運命の人を見つけたの”という“ファースト・サイト”ラヴ・ソング。フランク・シナトラの「ドリーム」を敷いた文字どおりドリーミーなミッド・ソウルで、メイシーの歌唱もどことなく夢見心地。ウィル・アイ・アムとロン・フェアによる佳曲。
08STRANGE BEHAVIOR
ストーリーテラー風のナレーションから幕を開ける、レトロでファンタジックなナンバー。愛し合っていた夫婦が互いに保険金をかけ、結局妻が旦那を撃ち殺してリッチになったという顛末をコミカルに描いている。プロデュースはメイシー自身とウィル・アイ・アム。
09SLOWLY
ロン・フェア制作によるライトなブルース風のミディアム・チューン。土臭さが漂うギターとハーモニカが南部の香りを醸し出し、ストリングス・アレンジが気品をもたらしながら、“ゆっくり二人の時間を過ごそうよ”とスロー・ライフを提唱している。
10GET OUT
ハイブリッドなロック・ビートがうねる、ジョウブレイカーズ(ウィル・アイ・アム&ジャスティン・ティンバーレイク)制作曲。アラン・トゥーサン「ゲット・アウト・オブ・マイ・ライフ・ウーマン」をフックに“早く出てってよ”と男を追い出すファンキー・ソウル。
11TREAT ME LIKE YOUR MONEY
ブリッジにデッド・オア・アライヴ「ユー・スピン・ミー・ラウンド」とウィル・アイ・アムのラップによるランDMC「イッツ・ライク・ザット」の一節を配したウィルとノイズトリップ制作曲。“アナタのお金みたいに私を大切にして”という男へのキツイ皮肉ソング。
12EVERYBODY
“立ち上がって、何か行動を起こそうよ”とリスナーを喚起するメッセージ・ソングだが、体裁はあくまでも変態的なウィル・アイ・アム節が炸裂するハイブリッド・ポップ仕様。“エヴリバディ”“イェー”の掛け合いが楽しいパーティ・トラックだ。
13AEIOU
あいうえお作文風に“A・E・I・O・U”から始まるフレーズをフックにした、デーモン・エリオット制作による明朗なミッド・ソウル。恋人への愛を明け透けに語るラヴ・ソングで、“本物の愛はアルファベットのようにシンプル”という説得力ある歌唱には脱帽。
14BREAKDOWN
ロミカを迎えたジャレッド・ゴッセリンとフィリップ・ホワイト制作曲。愛に溺れて疲れ果てたさまを、タイトで闊達なロミカのコーラスとやるせないほどの機微にあふれるメイシーの歌唱との対比で表現した、ノスタルジックなロック調ナンバー。
15ME WITH YOU
“アナタと一緒じゃないとどうしようもないの”という恋人へのラヴ・ソング。ウィル・アイ・アム制作によるブルージィなミッド・ソウルだが、渋みのなかにほのかに見られるメイシーの愛らしいヴォーカルが魅力的だ。