ミニ・レビュー
1年7ヵ月ぶりの自作曲集。素直なメロディなのに不思議とフックが強い龍之介作の「時の停まった部屋」、のびやかなサビが印象に残る直次郎作の「校庭に見つけた春」など、兄弟ともに曲作りの優れたセンスを発揮。笹路正徳の的確な編曲が光るが、龍之介自ら編曲した「おやすみのうた」も情感に満ちた素晴らしい仕上がり。
ガイドコメント
兄弟ギター・デュオ、平川地一丁目の3rdアルバム。シングル曲「夢の途中」「校庭に見つけた春」「運命の向こう」「永遠の約束」などを収録。男らしく成長した2人が、人間の内面というやや重いテーマを掘り下げることに挑戦している。
収録曲
01時の停まった部屋
傷付けあったり考え過ぎたり一人で泣いたりを繰り返したからこそ気付いた愛。その大切さを噛み締めるような歌詞が秀逸な大人っぽいポップ・ソング。歌声もさることながら、歌いまわしや詞の深さに、少年から大人になった兄弟の成長が実感できる。
02永遠の約束
クラヴィネットとハモンド・オルガンの音色が印象的な、すがすがしい雰囲気のポップ・フォーク。爽やかさと大人っぽさが入り混じったサウンドが心地よい。エンディングでア・カペラ気味に優しく歌う直次郎には、思わず胸がキュンとなる。
03ハイヒール
自分の弱さを隠すために無理して違う自分を演じようとしてしまう……そんな強がりな女の子への想いを歌ったポップ・ソング。さりげない歌詞の中に彼女への大きな愛が込められており、女の子の背伸びをハイヒールにたとえたセンスが絶妙。
04校庭に見つけた春
弟・直次郎が自身の中学卒業を記念して作った、メモリアル・ソング。青春期独特のもどかしさと拙さをハモンド・オルガンの音色で醸し出し、桜色した淡い恋の思い出を描く。MBS系『みんなの甲子園』テーマ・ソング。
05全ては君のために
「全ては君のために」と言われたら、嬉しい反面で暑苦しかったり重すぎると感じるもの。でもこの曲には、心からかけがえのない人に贈るための「全て君のために」という言葉がある。直次郎のまっすぐなヴォーカルが、言葉に活き活きとした命を与えているナンバー。
06夢の途中 (album edit)
苦しく険しい道のりにもめげずに夢を追い続けているすべての人たちへの応援歌。「夢の途中さ」「きっとたどり着く」といったありふれた言葉たちも、直次郎の誠実な歌声によって、確かな説得力を持った魂のメッセージとなって胸に響く。
07運命の向こう
テレビ朝日系ドラマ『てるてるあした』主題歌。混沌とした内情と向き合い苦悩する姿を、誠実に表現した意欲作。青年期の偽悪性を垣間見せつつも、人としての優しさや懐の深さを思いやるスタイルを貫いている。
08雨の日の仲直り
どことなく不吉なイントロから始まるミディアム・ナンバー。不安や悩みを歌っているだけに、曲全体にシリアスな雰囲気が漂っているが、それを乗り越える力強さと前向きさに満ちた歌詞のお陰で、爽やかな聴後感が得られる。
09悪魔の片想い (album edit)
「ピュアな歌詞とノスタルジックなメロディを得意とするフォーク・デュオ」という彼らのイメージを覆すかのようなアレンジが新鮮なロック歌謡。夜中の2時にあの子をさらおうとする「悪魔な僕」の結末は……? 聴いてみてのお楽しみ。
10ビンタしたいヤツ
どこか懐かしいようなキャッチーなメロディが耳から離れなくなる魅惑のポップ・チューン。久々に出会った友達が別人のようになってしまっていた時の心境を歌った詞もリアルで、共感が持てる。「殴る」ではなく「ビンタ」なのが彼ららしくてかわいらしい。
11パリな僕
モーグとアコーディオンのハーモニーが印象的なポップ・チューン。「生真面目は嫌い? 僕は能天気だよ」や「僕はヒーローさ! 世界で1番の」といったあどけない歌詞と、気だるくてアンニュイなメロディやサウンドとのミスマッチ感が楽しい。
12雪解けの頃に届く手紙
兄の龍之介がエレキ・ギター、弟の直次郎がアコギを担当したインスト曲で、兄弟ならではの息の合ったハーモニーが心地よい。メロディの美しさやサウンドの耳あたりの良さもさることながら、若くしてインストで自分たちの色や世界観を表現していることに驚かされる。
13おやすみのうた
癒しを求める現代人たちに送る、極上の子守唄。あたたかくてどこか懐かしいメロディと繊細なピアノの音色が、心地よく胸に染み入ってくる。優しくて前向きな歌詞も1日の終わりにピッタリ。今日の疲れを癒し、明日の活力をもらえる一曲だ。