ミニ・レビュー
シリアス、ユーモラス、エキセントリックと、彼女の多様な内面が鮮やかに作品化された5作目。自身が描き出す登場人物にどっぷりと憑依し、歌声の表情・重みを巧みに操作。言霊使いとしての才覚も全開だ。奇妙な歌詞「つまおうじ☆彡(拝啓王子様☆第三章)」に真顔で飛ばす冗談の効力も思い知る好作品。
ガイドコメント
柴田淳の5thアルバム。シングル「花吹雪」「紅蓮の月」「HIROMI」を収録。アレンジャーには重実徹、羽毛田丈史、松浦晃久を迎え、多彩な楽曲が顔を揃えている。王道のバラードもさらに深みを増した。
収録曲
01プロローグ
彼女の持つ透明感のある妖艶な歌声と変幻自在とも言うべき表現力がギュッと詰まったスキャットが堪能できる、極上のア・カペラ。美しいメロディに酔いながら、人間の声こそが最高の楽器であることに改めて気付かされる。
02青の時間
ピアノの音色が美しく響くイントロが印象的なバラード。Bメロまでの繊細さとオーケストラが加わって力強さが増したサビとのギャップは、インパクト大。儚さと強さを持ち合わせた彼女の歌の世界を、余すところなく堪能できる。
03HIROMI
通算14作目のシングル。ある女性の日記をそのまま覗き見しているかのような、核心をついた詞に一瞬ドキリとする。特に「誰か抱きしめて」という下りに、後戻りできない恋の結末のやるせなさが漂っている。
04涙ごはん
どんなに豪華な料理でも一人で食べたら味気ないし、質素な食事でも好きな人と一緒に食べたら最高のご馳走になる。そんな健気な想いが込められた詞に好感が持てるポップ・バラード。フレッシュで透明感のある声のご馳走を、心ゆくまで召しあがれ。
05月夜畑 (vocal solo)
どことなくアンニュイなスキャットが病み付きになりそうなア・カペラ曲。抱擁力のある低音から透明感のある高音、そして繊細なファルセットと、彼女の持つヴォーカリストとしての魅力を心ゆくまで堪能できるはず。
06花吹雪
シバジュンが1年のブランクを経て放ったスロウ・バラード。それまでのイメージを一新させる切ない歌だ。桜の花びらが散る情景の中、友との別れの悲しさと新たな出会いへの期待が入り交じった思いが伝わってくる。
07真夜中のチョコレート
美しく妖艶なメロディと軽やかで繊細なヴォーカルが溶け合うこの楽曲は、まるで甘いチョコレート。別れをテーマにした痛く切ない歌詞がその甘さにほろ苦いアクセントを与え、より深みのある味わいに仕上がっている。
08つまおうじ☆彡 (拝啓王子様☆第三章)
恒例となった「拝啓王子様」シリーズ第3章。ポップなアレンジに肩の力の抜けた感じのヴォーカル、そして最大の特徴であるコミカルな歌詞と、正統派ヴォーカリストとしての彼女とはひと味違った魅力を楽しめる。
09人魚の声
「愛されていないってわかってるけどあなたを失うのもこわい」そんな儚い恋心に溺れる主人公を、海の泡と消えてゆく人魚にたとえた詞が痛切なラブ・バラード。美しいメロディに乗せた、澄み切った水のように透明感のあるヴォーカルが涙を誘う。
10雨夜の月 (piano solo)
繊細で物憂げなピアノ・ソロによる小品。美しい和音階が郷愁を誘う。澄んだ歌声やソングライティングの実力、そして妖精のような美貌に加え、ピアニストとしての才能も1級品の彼女を見ると、「天は二物を与えない」のことわざが嘘だったと思い知らされる。
11紅蓮の月
懐かしいようで古臭くなく、シンプルだけど個性を放つ、不思議な魅力に包まれたバラード。歌謡曲からR&B、そしてJ-POPと、さまざまな音楽のエッセンスと彼女のオリジナリティが融合し、見事に一体感のある楽曲に仕上がっている。
12君が思えば…
優しさと力強さが同居する彼女の声の魅力が十二分に発揮された和風ミディアム・バラード。かけがえのない愛を歌った切ない歌詞とシンプルで親しみやすいメロディが、美しいヴォーカルを引き立てている。妖精のようなファルセットは必聴。
13私の物語
ささやきかけるようなピアノの音色とシルキーなストリングスによるイントロから、すでに名曲を予感せずにはいられない珠玉のバラード。儚くも力強い想いが、切ない歌詞や美しい歌声、曲全体からひしひしと伝わってくる。