ミニ・レビュー
ボブ・マーリーの娘でラッパーのサード作。共同ながら全曲本人制作で、楽器主体のメロディアスなトラックに歌も交えた作りは出身地フィリーの現行の音楽性の流れを汲みつつレゲエ、アフリカンなどにも広がる。嫌みなく堂々としたラップも気っ風がいい。★
ガイドコメント
AIのプロデュースなどでも知られるフィラデルフィア出身の女性ラッパー&シンガー、ステフ・ポケッツの3作目となるアルバム。“夢をあきらめない”をテーマに家族や友人、そして自分の可能性を歌ったナンバーが収録されている。
収録曲
01CAN'T GIVE UP
アコースティック・ギターとピアノのジャジィな絡みが心地良いヒップホップ・チューン。ゲストMCとして参加したアレステッド・ディヴェロップメントのスピーチとともに、夢を諦めないことの大切さを訴えたメッセージ・ソングだ。
02THANK YOU
今を生きることの尊さと神への感謝を綴ったアコースティックなバラード・ナンバー。絶望に押し潰されそうになる毎日だからこそ、希望を信じて生きていきたい……。そんな想いを託した優しい歌声がどこまでも響きわたる。
03PUT'EM UP
スペーシーなキーボード・サウンドをフィーチャーしたダークな音空間を、ステフ・ポケッツが高速フロウで切り裂いていく。一歩間違えると犯罪者へと転落してしまう荒廃したゲットー生活の厳しさを綴ったリリックも味わい深い。
04GET UP
裏拍を強調したシャッフル・ビートがグルーヴィな、レゲエ調のヒップホップ・ナンバー。困難と立ち向かい、低所得者層の公団住宅暮らしからスターへと成り上がろうとする意志を刻み込んだ、男勝りの力強いフロウが魅力的だ。
05IT HURTS
ジミ・ヘンドリックスを彷彿とさせる轟音エレクトリック・ギターと生ピアノが狂おしく絡み合うファンキー・チューン。傷を負った心を抱えながらも、それでも孤独と立ち向かっていこうとする強い覚悟が、徹底的に歌い込まれている。
06STAY
ステフ・ポケッツの実生活でのパートナーである、エンジニアのマイケル“バンプ”ファウンテンに捧げられた情熱的なラブ・ソング。エレクトリック・ギターの繊細なアルペジオが、優しくて大きい女性的な“愛”を紡ぎ出している。
07HIGHWAY TO HEAVEN
自身のレコーディング・アーティストとしての苦しみと孤独を偽り隠すことなく綴った、非常に内省的な世界観を持つメッセージ・ソング。苦悩を引きずるかのように爪弾かれる、ピアノの哀愁を帯びた響きがしみじみと胸を打つ。
08DOING WHAT WE DO
自分が信じる道を進み続けることの大切さを訴えたメッセージ性の強いミディアム・チューン。正確無比にリズムを刻み続けるピアノのコード弾きとグルーヴィな生ドラムが絡み合って、アグレッシヴで重いビートを作り上げている。
09ROLL WITH US
アウトキャストのヒット曲「ソー・フレッシュ、ソー・クリーン」からの引用を交えた開放的なパーティ・チューン。ステフ・ポケッツ自身が奏でるアコースティック・ギターの温かい音色がフィーチャーされたピースフルなサウンドだ。
10THERE FOR YOU
「アタシが手首を切ろうとした時にアナタは側にいてくれた」……。自身の過去を赤裸々にさらけ出しながら、どんなに辛い時でも自分を支え続けてくれた夫への感謝と変わることのない愛を綴った、非常にパーソナルなラブ・ソング。
11ROCKSTARS
音楽で稼ぎまくってスターに成り上がってやる! そんな貪欲な意志を世界に向かって叩きつけるパワフル・チューン。タイトルそのままに激しいディストーション・ギターを大フィーチャーしたヘヴィなロック・サウンドだ。
12MR.DJ
親しみやすいシンプルなメロディ・ラインとスムーズなグルーヴが印象的なレゲエ・チューン。スネア・ドラムやエレクトリック・ギターの裏打ちコード・カッティングに、深いリヴァーブをかけたダブ風のサウンド処理が心地良い。
13THE BEGINNING
アルバム『Can't Give Up』はこれで終わりだが、自分のラッパーとしてのキャリアはまだまだこれから。そんな次作への前向きな意欲を音楽に託したステフ・ポケッツ流ゴスペル・チューン。透明な音色のフルートが軽やかに舞いながら彼女の未来を祝福する。