ミニ・レビュー
そのゴスなルックスと挑発的なパフォーマンスで話題騒然のUKガレージ・パンク・バンドが、ついにアルバム・デビュー。ジョー・ミークにも影響を受けた彼らのサウンドは、凡庸なパンクとは一線を画すもの。そんな彼らの確信犯的な悪趣味は、一度ハマると癖になる!
ガイドコメント
2005年に結成されたロンドンの5人組ガレージ・パンク・バンド、ザ・ホラーズの1stアルバム。タイトなビートにギターとオルガンのリフや吐き捨てるようなヴォーカルを絡め、強烈なサウンドを生み出している。
収録曲
01JACK THE RIPPER
イギリスのカルト・ミュージシャン、スクリーミング・ロード・サッチの代表曲のカヴァー。連続殺人鬼“切り裂きジャック”をモチーフにしたナンバーで、地を這うようなベースとジェットコースターのような唐突な曲展開が刺激的だ。
02COUNT IN FIVES
レトロな響きを持ったシンセサイザーが特色の、ニューウェイヴ風のナンバー。妙に軽いサウンドやチープさを強調したコーラスにサイケデリックなヴォーカルなどが絡み合い、彼ららしい怪しげで不気味なムードを醸し出している。
03DRAW JAPAN
日本人を指したと思える“「オレたちは今なお王者だ」と主張する空っぽの器ども”などという詞が、強烈なインパクトを与える。ギターのノイズ、疾走するシンセ、不気味さを醸し出すベース・ラインなどが絡み合い、ユニークなサウンドを聴かせるサイケ風ナンバーだ。
04GLOVES
ファリス・ロッターのキレたヴォーカルやねじくれたシンセの音色、シンプルで分かりやすい展開が70年代のグラム・ロックを思わせる一曲。U2やキラーズでおなじみのアラン・モウルダーによる、メリハリの効いたミックスが絶妙。
05EXCELLENT CHOICE
力強いドラミングや縦横無尽に走るギター・ソロに支えられ、歌うというよりは叫びまくるヴォーカルが衝撃的なポスト・パンク風ナンバー。“おまえ”に対する心境が一方的に語られる詞は、抽象的で想像力を刺激する。
06LITTLE VICTORIES
「川に顔を浸けて横たわった若い少年の死体」などの歌詞から、戦場を描いた反戦歌とも受け取れるスピーディなロック・ナンバー。パイプ・オルガン風の温かなシンセと激しいバンド・サウンドとの融合が、戦場における矛盾を浮き立たせているようだ。
07SHE IS THE NEW THING
“彼女”に対する屈折した想いが歌われるニューウェイヴ風のナンバー。メタルの影響を感じさせながらも妙にゆったりとしたベース・ラインが特徴的で、サイケなヴォーカルにぴったりのサウンドを提供している。“ホラー”を体現する不気味なコーラスにも注目。
08SHEENA IS A PARASITE
1分半ほどの時間を疾走していくポスト・パンク・チューン。彼らの名を一躍イギリス中に轟かせた記念すべきデビュー・シングルで、重いうねりを上げるベースやノイズをまきちらすギターなど、彼らの特徴をしっかりと内包した完成度の高さに感嘆してしまう。
09THUNDERCLAPS
“轟く雷鳴”というタイトルのとおり、ヘヴィなサウンドを強調したサイケデリック・ナンバー。ドラッグが飛び交う怪しげな店を舞台に、“あちら側”の世界が描き出される。イカれた頭の中身を体感させてくれる表現力が見事だ。
10GIL SLEEPING
4分半に及ぶインストゥルメンタル・ナンバー。不気味なベース・ラインがループする中、実験性にあふれたギター・ソロが荒れ狂う。予期できない刺激的なギターとシンセの絡みが曲に緊張感を持たせ、終盤の展開に抜群の効果を与えている。
11A TRAIN ROARS
死体を運ぶ列車に乗る主人公の倒錯した心理が描かれたサイケデリック・テイスト満載の一曲。音と音の隙間を活かしたミックスが絶妙で、ヴォーカルの言葉がより印象的に響く仕上がりとなっている。ノイジーなベース音にも注目だ。
12DEATH AT THE CHAPEL
スピーディなキーボードがリードするポスト・パンク・ナンバーで、殺人鬼について歌ったとされる2ndシングル曲。切迫感を浮き立たせるファリス・ロッターのスクリーミング・ヴォイスが強いインパクトを与えている。ノイジィなギター・サウンドも強烈だ。
13HORRORS' THEME
死体を前にした“ドクター”に対して、ヴォーカルのファリス・ロッターがあれこれと指南する。メリハリをつけたトラック・メイキングが効果的で、恐怖心を与えつつも扇情性にあふれている。アルバム『ストレンジ・ハウス〜』のクロージング・ナンバー。
14KICKING KAY
デビュー・アルバム『ストレンジ・ハウス〜』の日本盤ボーナス・トラック。歪んだベースと狂ったように鳴らされるシンセが不気味な雰囲気を醸し出すなか、人間味を感じないスクリーミング・ヴォーカルがサイケな世界へといざなう。