ミニ・レビュー
女優として活躍する柴咲コウのサード・アルバム。これまでの作品でもわかるように、いわゆる“女優さんの音楽活動”という枠などはるかに超えているのだが、その理由は楽曲がもともと設定していた世界を、絶対に大きく拡げて自分のものにしようとする志にある。
ガイドコメント
柴咲コウの3rdアルバム。春をイメージしたという、みずみずしく情感豊かなヴォーカルが魅力的な一枚。ヒット・シングル「影」「invitation」「at home」などが収録されている。
収録曲
01嬉々
春をイメージしたフル・アルバム『嬉々〓[ハート]』にふさわしく、1曲目から躍動するリズム・セクションとみずみずしく情感豊かなヴォーカルが響きわたる。イントロの弾むようなピアノも春の訪れを予感させる、季節感たっぷりのナンバー。
02at home
TBS系『恋するハニカミ!』テーマ・ソングとなった、大地・愛・家族をテーマにした壮大なストリングス・バラード。リスナーに問いかけるような詞に、罪悪感に責められ、思わず胸が痛くなる人もいるだろう。曲の空気に寄り添うような柴咲の歌声は、女神のように厳粛だ。
03regret
シンガー・ソングライター崎谷健次郎が作曲を手がけた、シティ・ポップ・フレーヴァーのトラック。スタイリッシュなたたずまい、メロウネス、そしてその繊細さと、アダルトで都会的な空気が瞬間密封されている。
04invitation
10thシングルは、TBSドラマ『タイヨウのうた』の主題歌。去り行く夏への思いを爽やかに歌った、アップ・テンポなラブ・ソング。「リズミカルで夏に合う楽曲に仕上がった」という本人のコメントにふさわしいナンバーだ。
05-toi toi-
元々はインストゥルメンタルとして収録されるはずだった、演奏時間2分にも満たない小品。柴咲コウによる語りがミックスされることによって、優しくリスナーの心に浸透していくポエトリー・リーディングに生まれ変わった。
06甘いさきくさ。
叙情的なアコースティック・ ギターが全面的にフィーチャーされた、ナチュラルでオーガニックなトラック。“さきくさ”とは『万葉集』でも詠われた花のことで、枝が三つに分かれることに由来。みつまた、福寿草、沈丁花などの説がある。
07分身
シングル「actuality」の通常版のみに収録されていた作品をアルバム『嬉々・』に再収録した、メロウなアコースティック・ギターの調べが印象的なバラード。大同生命のCMイメージ・ソングとして起用されている。
08interference
09サカナカナ
単なるポップ・ミュージックの範疇におさまらず、ジャズ、R&Bのテイストも色濃く感じられる意欲作。不安と希望の間をすりぬけるかのような世界観の中から、柴咲コウの凛としたヴォーカリゼーションが鮮やかに浮かび上がる。
10ひと恋めぐり
TBS系ドラマ“愛の劇場”『砂時計』主題歌に起用された、優しさと切なさが幾十にも折り重なったミディアム・バラード。原作コミックからインスピレーションを受けて書いたという、彼女自身によるリリックにも注目。
11影
TBS系TVドラマ『白夜行』の主題歌となる9thシングル。柴咲自身が原作本を熟読して作詞に挑み、純愛世界を構築している。スローに始まり、うねるように曲調を変えて迎えるオーケストレーションによる壮大なサビが圧巻だ。
12うさぎ
「まるい目を真っ赤にして泣いている」自分をうさぎになぞらえた、ちょっぴりセンチメンタルな失恋ソング。しかし曲調はあくまでポップで、優しくたおやかなストリングスが春風のような爽やかさをリスナーに届けてくれる。
13カレンダー
1月から12月までの思い出をカレンダー形式で歌詞に織り込んだ、アップ・テンポなナンバー。打ち込み系のトラックだが、彼女の歌声がメロディと有機的に結びついて、情感がたっぷりと感じられる作品に仕上がっている。