ミニ・レビュー
デビュー10周年記念となる通算8作目。小田和正の11曲目や松本素生の4曲目など男性の提供作では甘酸っぱさを、竹内まりやの2、8曲目といった女性提供作では少女性を、それぞれ楽曲から抽出する松の表現力が見事。さらに、自作詞曲の7、9、10曲目が、緩急両面でアルバムの幅を広げているのが興味深い。
ガイドコメント
歌手デビュー10周年目に発表された、松たか子の8thアルバム。シングル「みんなひとり」やデビュー曲「明日、春が来たら」の新録ヴァージョンなどを収録。ほんのりやわらかなポップスを聴かせてくれる。
収録曲
01明日、春が来たら 97-07
97年に発表されたデビュー当時の歌声に10年目を迎えた2007年の歌声を掛け合わせた、タイトルどおりのリメイク・ナンバー。それに伴い歌詞の一部がより前向きに書き改められた。懐かしさと新しさが織り交った冒険心あふれる一曲。
02みんなひとり (anniversary mix)
竹内まりやが作詞・作曲を担当した、記念すべき20枚目のシングルのアルバム・リミックス・ヴァージョン。CX系ドラマ『役者魂!』の主題歌にも起用された。竹内まりやの特徴あるメロディをしっとりと自己流に歌い上げている。
03惑星
トライセラトップスの和田唱が作詞・作曲を担当、東京スカパラダイスオーケストラのメンバーも参加したナンバー。恋人たちが別れてしまう状況を前向きに捉えた歌詞が切なくも温かく、松たか子の歌声とマッチしている。
04春風スクランブル
GOING UNDER GROUNDの松本素生が作詞・作曲を手がけた、春の名曲と呼ぶにふさわしいナンバー。別れを男性目線から綴った歌詞だが、松の歌声によってそのナイーヴさがよりリアルになっているのが興味深い。
05イナーシア
GOING UNDER GROUNDの河野丈洋が作詞・作曲を担当。「ただ前を見て」というメッセージ・ソングだが、美しく心に澄みわたってくる伸びのある歌声からは、松自身の歌い続ける覚悟をも伝えているようだ。
06Cherish you
メロディがシンプルで歌詞が短い曲なのに強い余韻が残る、10周年記念アルバムのタイトル曲。ストリングスに交じりところどころで聴かれるサックスが曲全体の雰囲気を引き締めて、凛とした歌声を盛り立てている。
07きみの笑顔 きみの涙
東京スカパラダイスオーケストラのメンバーが参加した、松たか子自身の作詞・作曲によるナンバー。松の甥っ子に捧げたという希望あふれる世界観を醸し出した、聴き手を笑顔にさせるストレートな歌詞が魅力的だ。
08リユニオン
竹内まりやが作詞・作曲を担当。別れた彼と再会する情景描写にちりばめられた大人の女性の本音を抑え気味に歌い上げるヴォーカルが、新たな松の魅力となっている。ラウンジ・ミュージックを思わせるボサ・ノヴァ風アレンジも秀逸。
09夢のままで
恋人と別れた後の喪失感を「魔法にかかった自分」「手品のように消えたあなた」と表現した、自身の作詞・作曲によるナンバー。後半に高まるアコーディオンと松のヴォーカルが、物悲しい感情を助長しているようで切ない。
10now and then
希望と絶望を繰り返しつつ、夕焼けを見ては明日も前へ進もうと誓う女性を歌ったミディアム・チューン。松自身が作詞・作曲を手がけることで、歌い方も言葉もよりナチュラルに。ホーンの音が全体をコミカルに演出している。
11おやすみ
小田和正が全面的に手がけた、静かに深い愛情を感じさせるバラード。松、小田和正、根本要の三者による美しいハーモニーが心を温めてくれる。タイトルどおり、一日の終わりに神聖な気持ちで聴きたくなるような渾身の一作。