ミニ・レビュー
およそ3年半ぶりの通算5枚目。ダークで実験的な要素が目立った前作に比べ、本作は“良いメロディ”をとことんまで追求。11年目に突入したバンドのコンディションも良好で、ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースがそれを最大限に引き出している。
ガイドコメント
トラヴィスの通算5作目となるアルバム。時代の変化に踊らされることなく、素晴らしいメロディを紡ぎ続けてきた彼らが、本作でも卓越したソングライティング力を駆使した佳曲をたっぷりと聴かせてくれる。
収録曲
013 TIMES AND YOU LOSE
5thアルバム『ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム』のオープニング・トラック。センシティヴなギターのアルペジオ、ささやくようなフラン・ヒーリーのヴォーカルなど、トラヴィスらしさが詰め込まれた良質なポップ・ソングだ。
02SELFISH JEAN
タイトルどおり、かつての恋人である(?)“自分勝手なジーン”のことを歌った、煌びやかなギター・ポップ・ソング。シンプルながらにも心地良く叩かれるドラムスに支えられ、徐々に感情を高めていく表情豊かなヴォーカルが味わいどころだ。
03CLOSER
ストレートなギター・ポップの体裁を取りながら、幻想的なアルペジオやナイジェル・ゴドリッチによるノスタルジックなオーケストレーションが、誠実な愛の歌を感動的に演出している。5thアルバム『ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム』からの先行シングル。
04BIG CHAIR
無機質な打ち込み風のドラミングと怪しげなベース・ラインが、“大きな椅子”に乗って旅をする二人のミステリアスな詞世界を見事に描き出している。悟りを開いたかのような確信性にあふれたヴォーカルも魅力的なナンバーだ。
05BATTLESHIPS
フラン・ヒーリー(vo)の美しいメロディ・センスを前面に押し出した、アコースティック・テイストのナンバー。恋人同士を沈みゆく戦艦にたとえた辛らつな詞を、情感豊かな歌声と悲しげなオーケストレーション、やけに無邪気なアコギによって描き切っている。
06EYES WIDE OPEN
彼らの出世曲「ライティング・トゥ・リーチ・ユー」を思わせるディストーション・ギターのリフが印象的なナンバー。タイトに鳴らされるリズム隊や感情の起伏を見事にコントロールしたヴォーカルなど、見事なバランスの上に成り立った秀作だ。
07MY EYES
“もうすぐ君にも見えるはずさ 僕の目の涙が”と繰り返される詞が、フラン・ヒーリーのセンシティヴなヴォーカルにぴったり。それとは対照的な、これぞギター・ポップと言いたくなるキラキラのアルペジオが、またいい味を出している。
08ONE NIGHT
“一晩”で起こり得るあらゆる可能性について、悲壮感たっぷりに歌い上げた一曲。すでに起こってしまったことへの後悔の念を見事なオーケストレーションと強弱の巧みなバランスで描いた、ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースが見事だ。
09UNDER THE MOONLIGHT
胸を引き裂くような悲しげなギターの音色とエモーショナルなヴォーカルが、幻想的な愛の歌を奏でる。「月明かりの下 愛する人と〜」といった一連のリリックが美しい。ゲスト・ヴォーカルにKTタンストールを迎えている。
10OUT IN SPACE
アコースティック・ギターをバックにした引き語り風のナンバー。牧歌的なサウンドにのせて、“ああ、我が友よ、僕らは自分たちを責める”と辛らつに語られる詞世界は、彼らの出身地スコットランドの、爽やかだがちょっぴり寒い曇り空を彷彿とさせる。
11COLDER
音一つしない寒い世界の中で“すべてのものに心奪われる”男の心境を綴った幻想的なナンバー。“寒さ”を巧みに描き出すシンセサイザーのクリアな音色と、輪郭のはっきりとしたギターのアルペジオが印象的。その上をたゆたうヴォーカルの美しさも特筆ものだ。
12NEW AMSTERDAM
ニュー・アムステルダム(=ニューヨーク)に対する憧憬をみずみずしいヴォーカルで包み込んだナンバー。澄み切った音色が彼らのピュアな想いを描き出しているかのようで、きれいなニューヨークの街並みが脳裏をよぎる。
13SAILING AWAY
5thアルバム『ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム』にヒドゥン・トラックとして収録されたナンバー。細やかに弾かれるアコギの音色や無邪気な表情を見せるヴォーカルなどの息の抜けた演奏からは、彼らが楽しんでバンドをやっている姿が想像できる。
14THE GREAT UNKNOWN
激しいドラム・ブレイクから始まるロック・チューン。低音を活かしたドラミングや鮮やかなギターの音色、強弱をつけた展開に、ハイトーン・ヴォーカルがよく映えている。5thアルバム『ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム』日本盤ボーナス・トラック。
15PERFECT HEAVEN SPACE
5thアルバム『ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム』に日本盤ボーナス・トラックとして収録されたナンバー。緊張感にあふれたピアノの旋律にのせて、いまにも凍えてしまいそうなヴォーカルが胸に染み入る。聴き終わったあとに強い余韻を残す一曲だ。