ミニ・レビュー
前評判の高かったコノノNo.1との共演「アース・イントゥルーダーズ」は、ノイズ度が低くてちょっと肩すかし。主役はあくまで彼女自身、ということか。以下ティンバランド、トゥマニ・ジャバテと、気の利いた共演が並ぶなか、本領発揮はアントニー・ヘガティとの異形のデュエット「ザ・ダル・フレイム・オブ・デザイア」。
ガイドコメント
『メダラ』以来、約3年ぶりとなるビョークのアルバム。本作ではティンバランドやLFOのマーク・ベル、中国式琵琶のエキスパートであるイン・シャオ・フェンらを起用。多彩にしてオリジナリティあふれる世界を構築している。
収録曲
01EARTH INTRUDERS
鬼才ティンバランドがプロデューサーとして参加したことも話題となった、『ヴォルタ』からの1stシングル。いかにもティンバランドらしい変態的なリズムとビョークの奔放な歌声が見事にマッチした、トライバルなナンバーだ。
02WANDERLUST
抑えきれない放浪欲を高らかに歌い上げたポジティヴなメッセージ・ソング。迫力満点のホーン・セクションが、LFOのマーク・ベルがプログラミングしたバス・ドラムの強烈なキックに乗ることによって活き活きと踊り出す。
03THE DULL FLAME OF DESIRE
アントニー・ヘガティとの息の合ったデュエットを聴かせるシアトリカルで壮大なバラード。アンドレイ・タルコフスキー監督の映画『ストーカー』に登場するフョードル・チュッチェフの詩が、歌詞に引用されている。
04INNOCENCE
「まだイノセンスは失われてなんかいないわ!」。いかにもビョークらしいメッセージが込められた人間賛歌だ。ティンバランドがプログラミングした力強いバウンス・ビートが、ビョークの伸びやかな歌声に宇宙的なスケールを与えている。
05I SEE WHO YOU ARE
ビョークが自分の娘のために書き下ろした優しい子守唄。ミン・シャオ・ファンが奏でる中国琵琶のノスタルジックな音色が、静穏な音響系打ち込みサウンドに乗ってゆらゆらと漂う、ワビサビを感じさせるオーガニックなサウンドだ。
06VERTEBRAE BY VERTEBRAE
自分を束縛する足枷からの解放願望が歌い上げられたエモーショナル・チューン。多重録音されたホーン・セクションのゴージャスな響きとマーチング・バンド風のドラム・ビートからは、ミュージカル映画的なドラマ性が感じられる。
07PNEUMONIA
どんな困難が自分の身に降りかかろうとも、心を閉ざさずに前を向いて生きていこうと訴えたメッセージ・ソング。ホーン・セクションの儚げな響きのみで構成されたサウンド・プロダクションは、アンビエント・ミュージック的。
08HOPE
チェチェンで起こった妊婦の自爆テロについて歌われた社会批評ソング。どんなに悲劇的な事件であろうとも、人間のポジティヴな面を信じ続けるビョークのまっすぐな意志に心打たれる。トゥマニ・ジャバテが奏でるコラの音色が印象的。
09DECLARE INDEPENDENCE
「独立を宣言するのよ!」……凶暴なエレクトリック・ノイズが暴れまくる中で、強烈なメッセージが連呼される。グリーンランドとフェロー諸島で植民地支配に苦しむ人々に捧げられた反グローバリゼーション・ソング。
10MY JUVENILE
ビョークの心の中に潜む“もう1人の自分”が、クラヴィコードのクラシカルな響きに乗せて姿を現すバラード。アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのアントニー・ヘガティがビョークの“良心”を演じている点にも注目。
11I SEE WHO YOU ARE
『ヴォルタ』収録曲の中で最もパーソナルな内容といえる優しい子守唄を、LFOのマーク・ベルがリミックス。オリジナルから中国琵琶の音色が削除され、替わりに打ち込みを主体に据えたチル・アウト・ナンバーに仕上げられている。