ミニ・レビュー
デビューから15年、“キング・オブ・R&B”と謳われるR.ケリーの通算13作目となる本作は、話題の「アイム・ア・フラート・リミックス」をはじめ豪華ゲストを招聘したラグジュアリーなトラックづくしの全19曲を収録。『The New York Times』紙にて「脇役を演じられない男」と揶揄されるほどの存在感と色気にメロメロ!
ガイドコメント
長年にわたってR&Bシーンのトップを走り続けるR.ケリーの通算13thアルバム。T.I.やT-Painのほか多彩なゲストを迎えて、ヴァラエティに富んだ仕上がりとなっている。
収録曲
01THE CHAMP
ヒップホップ・サウンドをかなり意識したアルバム『ダブル・アップ』の1曲目とあって、R.ケリーらしからぬヒップホップ伝統の自慢大会が披露される。フィーチャリングのスウィズ・ビーツが、得意の不穏なたたずまいで大いに曲を盛り上げてくれる。
02DOUBLE UP
独特の歌うようなフロウはエイコンを代表に脈々と受け継がれているが、本家本元の実演が聴けるのはこのアルバム・タイトル・チューン。才媛トゥイート「アイスバーグ」からいただいたフレーズとスヌープ・ドッグが、西海岸のファンク・サウンドをいっそう熱くしている。
03TRYIN' TO GET A NUMBER
オリジナルのループはメロディ・コンシャスなR.ケリーだけに、フレーズではなく4小節のコード進行を繰り返す形。フィーチャリングのネリーに敬意を表してか、サウンドはセントルイス風だ。ネリーのフロウをR.ケリーが追っていく演出が心憎い。
04GET DIRTY
共演のカミリオネアを意識したような南部サウンド。問いかけるようなフロウで「女・クラブ・車」についてパフォーマンスしているところがシュールだが、バリトン・ヴォイスのカミリオネアとやさしいハイトーンのR.ケリーとのブレンドは正統派だ。
05LEAVE YOUR NAME
R.ケリーの入門編ミディアム・バラード。90年代からリスナーを楽しませてきた独特のスケールの大きいメロディが満載の作品だ。本曲のT-Painがウリにしているトーキング・モジュレーター的なヴォイス・エフェクトは、このR.ケリーの世界によく合う。
06FREAKY IN THE CLUB
音楽ならなんでもござれのR.ケリーが見事に消化している西インド諸島サウンド。夏にぴったりの和みアレンジは、心地よい水しぶきを浴びているような感覚にさせてくれる。どぎついナンパのリリックも何故かさわやか。
07THE ZOO
正統派R.ケリー・サウンドともいえる艶やかソング。R.ケリーが“ZOO”“MY JUNGLE”と歌えば、それはもう愛欲の世界。世界一卑猥なコンガ・サウンドや動物のいななきにも似たあえぎ声が、五感に響いてくる。
08I'M A FLIRT REMIX
抜群にキャッチーなR&Bサウンドが浮き立つヒット曲。こんなリズム感あふれるメロディにはなかなか出会えない。T.I.の温度の低いラップとT-Painの張りのあるヴォーカルが、繰り返されるフレーズ「俺は女ったらし」を楽しげに聴かせてくれる。
09SAME GIRL
「セイム・ガール」を挟んで兄弟になってしまった男2人をR.ケリーとアッシャーが演じるドラマ仕立てのR&Bナンバー。滑稽にも聴こえてしまうが、2人の熱っぽい歌はアカデミー賞に匹敵するほどの名演だ。両名のプロ根性にひたすら感服してしまう。
10REAL TALK
2005年発表の「トラップト・イン・ザ・クローゼット」の流れをくむ作品。オラン・ジュース・ジョーンズの「レイン」を思い出す黒人音楽伝統のねちっこい痴話ソングだが、美しいメロディで演出される世界はドラマのワンシーンが目に浮かぶようだ。
11HOOK IT UP
ハードなリズムとメロウでダビーなストリングス・ループの混ざり具合が心地よいR&B。ヒューイの泥臭く説得力があるラップとR.ケリーのなめらかなヴォーカルで繰り返される「お前の彼女に女の子を紹介しろって頼め」という内容もくだらなくて爽快だ。
12ROCK STAR
R.ケリーが初めてロック・サウンドに挑んだ作品。キッド・ロックの粋のいいシャウトが、R.ケリーの軽めの声をバランスよくサポートしている。暗めのギター・サウンドだが、リュダクリスが加わることでサウンドに明かりが射し込み、聴きやすい仕上がりだ。
13BEST FRIEND
R.ケリー、ケイシャ・コール、ポロウ・ダ・ドンが絡み合いながらパフォーマンスする、懐の深いR&B。中でもケイシャ・コールのヴォーカルには魂を揺さぶられる。売れっ子プロデューサー、ポロウ・ダ・ドンがラップのみで参加というのも興味深い。
14ROLLIN'
R.ケリー流2007年版南部サウンドといった趣の作品。ヒップホップ寄りのサウンドだが、R.ケリーが作り出す自在なメロディは出色の出来。流行りものに手を出しても、付け焼刃ではない見事な深みを感じさせてくれる。
15SWEET TOOTH
R.ケリーが自らを顧みているような美しい「ならでは」のサウンド。R.ケリーの楽しみ方である「音符に滑り込む歌のなめらかさを感じること」ができる作品だ。彼の発明である16分音符の歌メロをゆったりしたテンポに詰め込む手法も、流麗に鳴っている。
16HAVIN' A BABY
90年代のR.ケリーの作品にはなかった世界が歌われる透明なR&B。「ベイビーが生まれる喜び」を時にハスキーを交えて切々と歌い上げている。歌い手としてのR.ケリーのとてつもない幅の広さを存分に楽しめる作品だ。
17SEX PLANET
タイトルに思わず笑ってしまうが、おバカな内容をとてつもなく美しいサウンドとメロディで演出し、単なるおふざけに終わらせないR.ケリーの凄みが凝縮されている。バカなことをまじめにやる大切さを教えてくれる教訓ソングだ。
18RISE UP
2007年4月に起こったヴァージニア工科大学での銃乱射事件の犠牲者に贈られたトリビュート・ソング。エロだけじゃないR.ケリーの社会性が垣間見えて興味深い。ピアノとアコギがブレンドされたサウンドに、R.ケリーの歌のうまさが際立っている。
19I LIKE LOVE
博愛を歌った詞に世界は音楽でつながることができるんだ、とやさしい気持ちにさせてくれるレゲエ・トラック。歌詞とサウンドがこれほど合っている作品はなかなかないだろう。惜しみなく繰り出される素晴らしいメロディはひたすらさわやかだ。