ミニ・レビュー
これまでEPだけの発表にも関わらず、マーズ・ヴォルタらのサポートで3度も来日しているNYのポスト・ロック・バンドの初フル・アルバム。ハードコア、ロック、テクノ、ミニマルなど、ポリリズミックなアンサンブルによる実験的ながらポップな音世界は独特。
ガイドコメント
タイヨンダイ・ブラクストン率いる4人組ロック・バンド、バトルスのデビュー・フル・アルバム。実験的なごった煮サウンドを残しつつ、メロディアスでハーモニックな仕上がりとなっている。ジョン・ステニアーの迫力抜群のドラムも聴きどころ。
収録曲
01RACE: IN
小刻みに刻まれるドラムと覚えやすいメロディを奏でるシンセを土台に、分厚いベース・ラインとドラミングが激しくぶつかり合う、デビュー・フル・アルバム『ミラード』の冒頭曲。ごった煮状態で融合されるさまざまな楽器の圧力に魅了される。
02ATLAS
感情の赴くままに自由に駆けるギター・プレイが刺激的。シンプルながらも重低音で心地良いリズムを生み出すドラムやメリハリを効かせたベースの安定したプレイが、7分にも及ぶ長尺曲を引き締めている。
03DDIAMONDD
ハイテンション×ハイスピードなヴォーカルが印象的なポスト・ロック・ナンバー。同じく高速で進行するドラムの超絶プレイや狂おしいほどに疾走するシンセサイザーなど、テクニックに裏付けされた暴走ぶりが楽しめる。
04TONTO
時にミステリアスな、時にエスニックな雰囲気を醸し出すギター・プレイを軸に展開する7分半の長尺トラック。踊るように弾むリズム隊や雄叫びのような民族音楽調のヴォーカルも印象的で、中盤で見せるメロディアスな展開は曲に華を添えている。
05LEYENDECKER
打ち込み風の重々しいドラム・サウンドを軸にしたスローなナンバー。ミステリアスな古代文明の世界を彷彿とさせる、神秘的なムードを携えたピアノと不気味なシンセサイザーの響きや、個性的なハミング・ヴォーカルが聴きどころだ。
06RAINBOW
8分を超える長尺の中にさまざまな展開を配置し、気の抜きどころのないトラックに仕上げている。雷鳴のように鋭く鳴らされるギターや突然速度を増し疾走するドラム、空気を乱すように駆け抜けるシンセなどが、緻密な計算の下で融合している。
07BAD TRAILS
雄大な草原を想起させる民俗音楽的なトラック。ゆったりとしたドラミングや鳥のさえずりのようなシンセの音色、自信と余裕に満ちた野性味の強いヴォーカルなど、目を瞑って聴いていると日本にいることを忘れてしまいそうな不思議な力を持った一曲。
08PRISMISM
「ここ10年くらい、アフリカン・ミュージックを大量に聴いてきた」というイアン・ウィリアムスの言葉を反映するような、1分弱のアフリカン・ビート・トラック。ミニマルなシンセサイザーを軸に怪しげなムードで奏でられている。
09SNARE HANGAR
彼らにしては珍しく、冒頭からキャッチーなギター・リフが炸裂。明るく晴れやかな響きをたたえたシンセサイザーも登場し、ポジティヴなムードがいっぱいのトラックになっている。重低音で勢いのある打ち込み風のドラムもインパクト大。
10TIJ
近未来的なシンセ音や高速ドラムに、民族音楽的なヴォーカルとギターがぶつかりあう、彼らならではのごった煮トラック。“壮絶”という言葉がぴったりの楽器同士のせめぎ合いが楽しめ、そのエネルギッシュなサウンドは音楽の持つ魅力を凝縮しているかのようだ。
11RACE: OUT
デビュー・フル・アルバム『ミラード』のオープニング・トラック「レース:イン」に呼応する、クロージング・トラック。おどろおどろしいドラムが印象的に響く中、何本ものギターが絡み合い、独創的なごった煮サウンドを完成させている。
12KATOMAN
幻想的なシンセサイザーの音使いが優しく響く、イージー・リスニング風のトラック。大自然を思わせる優しさにあふれていて、癒しを与えてくれそうだ。デビュー・フル・アルバム『ミラード』の日本版ボーナス・トラック。