ミニ・レビュー
内省的な前作から一転、音の作り込みを果敢に行なった通算21作目。収録曲のうち、6曲は2003年に録られていたもの。スターバックスが設立した HEAR MUSICへの移籍が話題だが、彼のマジカルなポップ魂はまったく普遍。緻密ながらも清々しさを感じる快作だ。
ガイドコメント
2007年6月発表の通算21作目のソロ・アルバム。デヴィット・カーンのプロデュースのもと、安心印の良質ポップスが披露されている。いつまでも色あせない煌びやかな魅力のあふれる一枚だ。
収録曲
01DANCE TONIGHT
大地の鼓動のごとくのリズムと軽やかに歌うマンドリン。そのアーリー・アメリカンなサウンドに乗せて、生を謳歌する最高の宴にポールは聴き手をいざなう。素朴ながらも強靭なポジティヴィティをたたえた、魂を揺さぶる珠玉のポップ・チューン。
02EVER PRESENT PAST
オーヴァーロードな現代人を風刺した、ユーモラスなポップ・チューン。メロディ・ラインといいベース・ラインといい、いたってシンプルなのにあふれて止まらない躍動感。何をやってもにじみ出てしまうポールの歌心には脱帽だ。
03SEE YOUR SUNSHINE
2番目の妻・ヘザーへ不仲になる前に捧げて書いたという、ストレートなラヴ・ソング。熟した男ならではの落ち着いた物腰の中にも、メロディックなベースやパーカッシヴなピアノ遣いなど、ビートリッシュなサウンド・アプローチが満載。
04ONLY MAMA KNOWS
弦楽四重奏? プログレ?……と、イントロだけでかなり翻弄されるも、蓋を開ければドライヴ感満点の王道ロック・チューン。還暦過ぎとは思えぬエネルギッシュな歌唱と決意がみなぎるリリックに、ポールの新たな船出を象徴している感動作。
05YOU TELL ME
“追憶の彼方に”というアルバムの邦題にふさわしい、郷愁を誘うメロウなアコースティック・バラード。マイナー調の旋律で美しく描き出される英国情緒たっぷりの風景は、まさにビートルズ時代のポールの作風を思わせる。
06MR BELLAMY
「ロング・アンド・ワインディング・ロード」あたりを彷彿とさせる、明らかにポール然としたメロディだが、創り込まれた高密度なトラックは、聴き込むほどに驚異。パントマイムを見るような感覚に陥る、どこか奇妙なポップ・チューン。
07GRATITUDE
タイトルは“感謝”の意。ポール版「アメイジング・グレイス」とも言うべき、ドラマティックなゴスペル・ナンバー。「オー・ダーリン」でのあの全身全霊の絶唱を、還暦を過ぎてなおも聴かせてくれるとは!
08VINTAGE CLOTHES
「過去に生きちゃダメだ」と歌う、常にトップ・ランナーたるポールらしいポジティヴなナンバー。高らかなコーラスやドラマティックな曲展開がザ・フーのロック・オペラ『トミー』あたりを彷彿とさせる、60's風味のポップ・チューンだ。
09THAT WAS ME
オールド・ロックンロールに乗せて少年時代を回顧していく、ビートリーなアプローチも随所に配されたファンキーなナンバー。わんぱくな少年像を描き出すかのような躍動的なベース・プレイは、やっぱりポールならではのもの。
10FEET IN THE CLOUDS
自己の生き様に想いを巡らす、奥深いアコースティック・チューン。弾き語りのシンプルなサウンドに、レクイエムにも通じるコーラスが加わる厳かな中間部。そこには、決して無難なポップスで終わらせない、格調高きポールの職人魂が光っている。
11HOUSE OF WAX
嵐に打たれる“蝋人形の館”。それは、殺伐とした身の回りの状況に必死で耐えるポール自身の姿を象徴しているかのよう。その切ない絶唱に、ポールの苛立ちや哀しみがありありとうかがえる、ヘヴィなエモーショナル・バラードだ。
12THE END OF THE END
『レット・イット・ビー』の頃を彷彿とさせる、ポールお得意の感動的なピアノ・バラード。“僕が死んだら”なんてフレーズが切ないが、見返り菩薩のごとく振り返り、僕らを励ますポールの姿が目に浮かんで仕方がない。優しさあふれる名曲だ。
13NOD YOUR HEAD
「サージェント・ペパー〜」をヘヴィメタ風にしてみましたといった趣の、古今を見事に共存させた圧巻のトラック。離婚協議中の妻・ヘザーへの苛立ちをぶちまけたかのような鬼気迫るシャウトは、そのサウンドと相乗して戦慄のド迫力だ。
14WHY SO BLUE
“ねえ君、どうしてそんなにブルーなの? じっくり話を聞こうじゃないか”と、まるでこちらに語りかけてくるような、親密な空気をたたえたシンプルなアコースティック・バラード。情緒的なマイナーの旋律がいかにもポールらしい。