ミニ・レビュー
2年半ぶりとなる6枚目のアルバム。荒々しいブレイクビーツの上をコズミックなシンセが乱れ飛ぶ彼ららしいトラックから、抑制の利いたファンク・ビートがセクシーなシングル曲までバランス良く並ぶ。ファットリップやウィリー・メイソンなどゲスト陣も豪華。
ガイドコメント
ダンス・ミュージック界の巨匠、ケミカル・ブラザーズの約2年半ぶりとなる6thアルバム。リード・トラック「DO IT AGAIN」のほか、クールでハイセンスなサウンドが満載。余計な装飾は一切なしの、ストレート・スタイルで勝負している。
収録曲
01NO PATH TO FOLLOW
“誰も体験したことのない世界を想像する”という彼らの創作アイデンティティそのものを改めて宣言する、アルバム『WE ARE THE NIGHT』のオープニング。同作収録の「Battle Scars」から語りの部分を抽出し、不穏でスペーシーなイントロに仕上げている。
02WE ARE THE NIGHT
アルバム・タイトルにもなっている、インパクトのあるフレーズが耳を引く。アッパーなドラミング、きらびやかで恍惚感があふれる上モノという、彼らの王道といえる曲構成だ。ビル・ビセットの詩がサンプルされ、痛快なダンス・トラックの中に神秘的な空間が広がる。
03ALL RIGHTS REVERVED
ニュー・レイヴの先鋒アーティスト、クラクソンズをゲストに迎えた、セクシャルなブレイクビーツ・チューン。終末観や混沌について歌われる、浮世離れした奇妙な詞が彼ららしい。彼らのダーク・サイド、サイケデリック・サイドがよく現れた佳曲。
04SATURATE
彼らのクラシックでもある名曲「ザ・プライベート・サイケデリック・リール」の流れを汲んだ、高揚感あふれるブレイクビーツ。初期ケミカルを思わせる、ダイナミックなドラムロールと心地良いシンセサイザーの高音が交錯するアンセム・トラックだ。
05DO IT AGAIN
夜を想起させる曲が並ぶ『WE ARE THE NIGHT』の中で、とりわけ肉体的な夜を感じさせるセクシーなトラック。ヴォーカルを務めるアリ・ラヴは“UKの岡村靖幸”とでもいうべき存在。音数を抑えたストイックなトラックを、彼の生々しい息づかいが夜の色に染めていく。
06DAS SPIEGEL
美しいシンセ、緩いテンポで牧歌的に流れていくメロディとポップなノイズを駆使したサウンドが印象的。エレクトロニクスのみでフレーズを表現するテクニックはさすがの一言。ケミカルブラザーズがテクノ・アーティストであることを改めて認識させる楽曲。
07THE SALMON DANCE
ヴェテラン・ヒップホップ・ユニット、ファーサイドのファットリップをフィーチャーしたコミカルな楽曲。“ABCの歌”を思わせる愉快なフロウとカラフルなシンセのノイズが好相性だ。鮭をテーマにしているというコンセプトも風変わりで、名人たちの余裕を感じさせる。
08BURST GENERATOR
コズミック・ディスコをケミカルブラザーズ流の解釈で鳴らした楽曲。序盤から終盤にかけての大袈裟ともいえる緩急のつけ方が痛快だ。美しいシンセ・ノイズと硬質なドラムがスペーシーでサイケデリックな磁場を生む、アルバム『WE ARE THE NIGHT』後半のハイライト。
09A MODERN MIDNIGHT CONVERSATION
軽快なビーツにファットなベース、サウンド・デザインはあくまでポップでユニーク、ここに美しい女性ヴォーカルによる流麗なサンプリングが加わり、ケミカルブラザーズの王道が完成。シンプルな中に職人の細やかな技が聴き取れる、彼ららしいトラック。
10BATTLE SCARS
「No Path To Follow」でもフィーチャーされた語りが神秘的に響く楽曲。米フォーク・シーンの俊英、ウィリー・メイソンのヴォーカルが独特の風合いを醸し出している。木琴のような音が聴こえるなど、トラックはどこかオーガニックな表情を持ち、彼の歌とも好相性だ。
11HARPOONS
ノンビートで展開されるチルアウト・トラック。美しすぎるシンセが幾重にも交錯する、スペーシーでサイケデリックな曲構成は、ミュージシャンであると同時にヴィンテージのシンセサイザー収集家でもあるトムとエドの面目躍如といえる。
12THE PILLS WON'T HELP YOU NOW
マーキュリー・レヴやフレーミング・リップスのようなナチュラルなサイケデリック感と美しいコーラス・ワークをまとっていて感動的。テキサスのオルナタ・カントリー系アーティスト、ミッドレイクをフィーチャーした、深い夜の森のように静かで神秘的な楽曲だ。
13SEAL
緩やかで静かなダウン・ビートの上を、子供のような、女性のような、不思議なコーラスが彩る。粒の細かいシンセ・ノイズの洪水が、コーネリアスの作風を彷彿とさせる。ポップでクレイジーな、玩具のような宇宙が広がる楽曲。
14NO NEED
どこかオリエンタルな雰囲気が漂うメロディが印象的なブレイクビーツ・チューン。骨太のドラミングとベース・ライン、歪んだ上モノがインダストリアルな表情を演出している。ミドル・テンポながら曲の輪郭がブレない、見事なダンス・トラックだ。