ミニ・レビュー
日本のロック・バンドとして初のウィーン録音を敢行し、ウィーン交響楽団とのコラボレーションで作り上げた大作。メロディの美しさは過去最高、“喜び”をテーマとしたメッセージも深く心に響く、超然としていながらきわめてポップな仕上がり。傑作でしょう。★
ガイドコメント
音楽の都オーストリアはウィーンでレコーディングされた、くるりの2007年6月発表のアルバム。ウィーン交響楽団とのセッションを実現させ、クラシックとロックの融合に成功している。
収録曲
01ハイリゲンシュタッド
佐藤征史の作曲、岸田繁のアレンジによるオーヴァーチュア。チェロの低音が静かにすべり出すと、そこはストリングスとホーンが繰り広げるクラシカルな別世界。くるりの新楽章『ワルツを踊れ』が、ここから始まる。タイトルは、ベートーヴェンゆかりの地名から。
02ブレーメン
切ないメロディとピアノの3連打バッキングが絶妙にマッチした佳曲。アウトロで一気に加速するギターとホーンの駆け引きは、ザ・フーのロック・オペラを連想させる。岸田繁がチェコのプラハで書き上げたという美しい歌詞も秀逸だ。
03ジュビリー
音楽の都、ウィーンでレコーディングされた、クラシックとくるりのちょっとひねりの効いたポップ・センスが溶け合った壮大なバラード。ゆったりとした、どこか懐かしい空気感を湛えたメロディが全編を包み込んでいる。
04ミリオン・バブルズ・イン・マイ・マインド
ふわふわ漂うファルセット・ヴォイスとうねるベース・ラインが印象的なナンバー。ギター、ベース、ドラムのシンプルな楽器構成に、幾層にも重ねられたヴォーカルとフェイジング効果でマジカルなロックに。70年代の空気感も心地よい。
05アナーキー・イン・ザ・ムジーク
ジャパニーズ・ロック界のアナーキスト・くるりが叩き出す、ロウファイなラップ・ソング。“全然 間違いで結構”と気だるいヴォーカルが毒を吐く。暴走ギターと狂気のストリングスが丁々発止に渡り合う、アウトロでの音楽バトルは聴き応え十分。
06レンヴェーグ・ワルツ
アコギの弾き語りによるアコースティックなワルツ。夜風のような美しいメロディと岸田の淡々としたヴォーカルが涙を誘う。タイトルにあるレンヴェーグとは、レコーディング中に滞在していたウィーンの地名。
07恋人の時計
ハト時計を模したSEとどことなく80年代風のイントロで始まる、可愛らしいポップ・ロック・チューン。時計を見て、笑ったり、泣いたり、イライラしたり、恋人たちは忙しい。柔らかくも重厚なストリングスが情景を盛り上げる。
08ハム食べたい
ギター、ベース、ドラムのシンプルな3ピースで奏でるミッド・チューン。目の前にあるのに、なかなか食べられない“桃色のハム”を歌ったユーモラスなラヴ・ソングだ。くるりが直球のロック・バンドであることを肌で感じられる一曲。
09スラヴ
全編にストリングスをフィーチャーし、ヨーデルからアイリッシュ・トラッドまで巻き込んだ究極のミクスチャー・ソング。曲調、テンポともに目まぐるしい展開は、チャイコフスキーの「スラヴ行進曲」を連想させる。哀愁を帯びたバンジョーの音色にほろり。
10コンチネンタル
荒削りのギターがわき目も振らず駆け抜ける、ストレートなロック・チューン。ジャキジャキした変拍子の前半と、幻想的な多重ヴォーカルの後半の2部構成になっている。微かに後ろで鳴っているSEは、頭の中のカオスが流れて出るがごとし。
11スロウダンス
カントリー風の曲調が切ないミッド・テンポのラヴ・ソング。ねじれた恋心が綴られた歌詞には、寒い冬の夜の匂いがする。星空が目に浮かぶようなシンセや、テルミンをフィドルのように使うなど、音飾の味つけにも凝ったナンバー。
12ハヴェルカ- CAFノ HAWELKA -
昭和歌謡の香り漂うトランペットがノスタルジックなナンバー。切ない主旋律とコミカルなホーンの音色、ボヘミアン風のアレンジが絡み合って、独特の雰囲気を醸している。タイトルは、ウィーンに実在する老舗のカフェの名前。
13言葉はさんかく こころは四角
言葉は三角、心は四角、涙はまあるい。アコースティック・ギターに乗せて歌う、淡く幼い恋の終わり。“いつかきっと君も恋に落ちるだろう”という噛み締めるようなフレーズが、ほろ苦く切ない。2007年7月発表の映画『天然コケッコー』主題歌。
14ブルー・ラヴァー・ブルー
『ワルツを踊れ』初回盤のみに収録の未発表ボーナス・トラック。レゲエ調の3拍子にオールディーズな響きのギター、ブルージィなオルガンのスパイスが効いたロッカ・バラードだ。ノスタルジックなファルセット・コーラスに涙がにじむ、甘く切ないラヴ・ソング。