ミニ・レビュー
オリジナルとしては2年ぶりのアルバムは、映画『赤い文化住宅の初子』の主題歌「Moor」など全10曲。ポップスが頂点を迎えた60年代末期の空気が流れ、前向きの懐かしさとでもいう不思議な感覚に襲われる。アレンジも結構。上質のポップスが味わえる。
ガイドコメント
シンガー・ソングライター、UAの7thアルバム。シングル曲「黄金の緑」や「Love scene」を含む充実作で、彼女がまたひとつの到達点に達したことが実感できる仕上がり。ラストを飾る「Moor」は、映画『赤い文化住宅の初子』の主題歌。
収録曲
01黄金の緑
松本治のフリューゲル・ホルンがフィーチャーされた、内橋和久による異色のアシッド・ポップ。バウンス16ビートのソウルフルなリズムの上を、山梨の光り輝く白菜畑からインスピレーションを得たユニークな歌詞が踊っている。
02Melody lalala
太陽、それはメロディ。地平線の向こうから響いてくる温かなリズムに乗せて、自然の女神UAが歌うたおやかな地球賛歌。ムーグの音までアコースティックに聴こえてくるから不思議だ。作曲・プロデュースは鈴木正人。
03Paradise alley/Ginga cafe
藤乃家舞の作曲・プロデュースによるドリーミーなララバイ。曲全体を包む木管楽器の柔らかな音色とUAのオーガニックな歌声が、たまらなく優しい。タイトルの“Paradise alley”は、鎌倉に実在するカフェの名前から。
04トュリ
トゥリとは、奄美地方の言葉で“鳥”のこと。タブラが刻むリズム、アーシーなシタール、ユタの祈りのごときUAの歌が螺旋状に絡み合い、極彩色の大きなうねりとなって、この星に響きわたる。作曲・プロデュースはシタール奏者のヨシダダイキチ。
05ノレンノレン/灰色した猿の夢
「灰色した猿の悲しい夢を見たよ」。おどけたホンキートンク・ピアノとホーンのユーモラスな響きに乗せて、UAの軽やかな歌声が日本語と英語で描き出す、ちょっぴり切ないナーサリー・ソング。作曲・プロデュースは藤乃家舞。
06Love scene
朝本浩文による「甘い運命」「ミルクティー」以来のスウィートなラブ・ソング。松本治のフリューゲル・ホルンがフィーチャーされたあたたかみのあるサウンドに乗せ、現代の恋愛からアダムとイヴにまで通じそうな男女の愛を、UAが静かに優しく歌う。
07San andreas fault
ナタリー・マーチャントが95年に発表した『Tigerlily』収録のナンバーをカヴァー。美しいストリングスを加えたアレンジにより、オリジナルに忠実でありながらも奥行きのある仕上がりになっている。プロデュースは鈴木正人。
08Elm
清らかなアコースティック・ギター、リズム隊のゆるぎないバッキング、そしてエンジニアZAKの技が一体となった、極上のポップ・ナンバー。まるで楡の木(=Elm)の精と化したUAの歌声がまばゆい。作曲・プロデュースは鈴木正人。
09Panacea
チェロの四重奏に導かれて、夢と現実(=左右で別々に鳴るドラム)の狭間をUAが華麗なフォームで泳いでいく。“万能薬”と名付けられた英詞のナンバーは、ヴォーカリストUAの可能性をまたひとつ押し広げた。作曲・プロデュースは内橋和久。
10Moor
アルバム『Golden green』の最後を飾るのは、映画『赤い文化住宅の初子』の主題歌。“みんなもう気がついてるのに 知らないふりだけ上手で”……曇りのないUAの言葉と流麗なストリングスの音色が胸を締めつける。作曲・プロデュースは朝本浩文。