ミニ・レビュー
これまでに比べじっくり時間をかけて作った(とはいえ3週間)通算6作目は、デビュー10周年を飾るにふさわしい快作だ。マリアッチ・トランペットやバグパイプなどで音に彩りを加えつつ、芯のガレージ・ブルース・ロック魂はまったく揺るがず。骨太ロックに感電必至!
ガイドコメント
ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトによるデュオ、ザ・ホワイト・ストライプスの6thアルバム。彼らのルーツであるアメリカン・フォークを基盤に、厚くモダンなロック・サウンドが展開されている。
収録曲
01ICKY THUMP
アメリカ政府が行なっているメキシコ移民への不当な扱いに対する強い皮肉が込められた、パワフルでヘヴィなロック・チューン。タイトルは英国北部の人間がよく使う、「ワォ!」「マジかよ!」という意味のスラングから。
02YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS (YOU JUST DO AS YOU'RE TOLD)
ギターとドラムスだけという最小限のバンド・アンサンブルに、キーボードを加えることによって音の厚みを増したポップなラヴ・ソング。ふしだらで無知な女に対して“本当の愛”を説く歌詞は、伝統的なブルース・スタイルだ。
03300 M.P.H. TORRENTIAL OUTPOUR BLUES
扇情的なタイトルに反して、サウンドは地味で渋めなアコースティック・ブルース……と思いきや、サビでは爆音のエレクトリック・ギターが一気に炸裂する。ホワイト・ストライプの多面的な個性が存分に発揮されたロック・ナンバーだ。
04CONQUEST
“ワルツの女王”ことパティ・ペイジのヒット曲としても知られる、コーキー・ロビンズの名曲のカヴァー。オリジナルに忠実なサウンド・アレンジからは、ジャック・ホワイトのルーツ・ミュージックに対する強い敬意が感じられる。
05BONE BROKE
ギターとドラムスのガチンコ勝負が繰り広げられる、ホワイト・ストライプスの王道ともいえるパワフルなガレージ・ロック・ナンバー。シンプルなサウンドながらも、細かいリズム・チェンジによって、楽曲に巧みな変化を付けている。
06PRICKLY THORN, BUT SWEETLY WORN
バグパイプとマンドリンがフィーチャーされたサウンドに親しみ易いメロディが乗る、ホワイト・ストライプス流トラディショナル・フォークといった趣のロック・チューン。アメリカの伝統音楽の息吹きが見事に現代に継承されている。
07ST. ANDREW (THIS BATTLE IS IN THE AIR)
メグ・ホワイトの語りによって綴られる、キリストの十二使徒“アンデレ”に由来する名前が冠された反戦ソング。バグパイプが響きわたるスコティッシュ・トラッド調のサウンドながら、フリーキーなエレキ・ギターが暴走していくあたりの味付けが現代的だ。
08LITTLE CREAM SODA
レッド・ツェッペリンの「移民の歌」を彷彿とさせる、ヘヴィかつグルーヴィなリズムが印象的なハード・ロック・チューン。生きることに対しての諦観とタフな意志が同時に感じられる、深みにあふれたアンビヴァレンツな歌詞が秀逸だ。
09RAG AND BONE
“ガラクタ屋”の気ままで痛快な全国行脚の旅が描かれたカントリー・パンク・ソング。ジャックとメグの息の合ったデュエットからは、L.A.パンクの名バンド“X”からの影響が顕著に現れている。
10I'M SLOWLY TURNING INTO YOU
“俺はゆっくりとおまえになっていく”。そんな倒錯的なフレーズが執拗に繰り返される、“憧れ”の暴走を描いた妖しくてセクシーなラヴ・ソング。ハモンド・オルガンが大フィーチャーされたサウンドは、70年代のサザン・ロック風だ。
11A MARTYR FOR MY LOVE FOR YOU
自分に自信を持てない男が一目惚れした女性に対して抱き続けている、叶うことのない“愛”を切々と吐露するバラード。ハモンド・オルガンのコード弾きから生まれるドローン効果によって、サウンドに奥行きが与えられている。
12CATCH HELL BLUES
ジャック・ホワイトの超絶ギター・テクニックが堪能できる、まさにタイトルどおりのヘヴィ・ブルース・チューン。アヴァンギャルドでフリーキー極まりないギター・フレーズには、キャプテン・ビーフ・ハートの影響もうかがえる。
13EFFECT AND CAUSE
「結果を原因にはできない」……つまり、世界とは原因と結果の相関関係で成り立っている。だから自分の人生は自分で切り開いていかなくちゃ。そんな前向きな意志が刻まれた、アルバム『イッキー・サンプ』の締め括りにふさわしいフォーク・ロック・ナンバー。
14BABY BROTHER
王道のブルース進行で構成されたストレートなロックンロール・チューン。オールドスクールなロカビリー調のサウンドだが、ベースの不在によってグルーヴよりもパンク的なスピード感を際立たせているのがホワイト・ストライプス流儀だ。