ミニ・レビュー
チープさに開き直ったようなチャカチャカ・ビートに乗った、性急だが迫力満点の歌詞。マドンナも間違いなくチェックを入れてるであろうスリランカ系女性の2作目は、世界各地のリズムを闇鍋的にミックス。何はともあれこの即時的なスピード感はすごい。
ガイドコメント
バングラ・ビートやヒップホップなどを融合させ、独自のビートを紡ぎ出すM.I.A.の2ndアルバム。機材ひとつを携え世界各国の貧困街や先住民街を訪問、その地で得たナチュラルなサウンドとエレクトロ・サウンドを見事に融合させている。
収録曲
01BAMBOO BANGA
衝撃のデビュー・アルバムから2年。M.I.A.がさらにパワー・アップしたことを高らかにラップする2ndアルバム『カラ』の冒頭曲。比較的シンプルなエレクトロ調のビートにインドの映画音楽のサンプルを挟み込み、独自のフレイヴァを作り上げている。
02BIRDFLU
インドに おいて30人にも及ぶドラム奏者を集めて作り上げたという、パワフルでエキゾティックなリズムで埋め尽くされた曲。メロディ楽器を極力廃したプロダクションのあり方は、ポップ化が激しいヒップホップを原点に引き戻すかのよう。
03BOYZ
ビーニ・マンがジャマイカでプレイしているという、ダンスホール色の強いフロア・ナンバー。とはいってもそこはM.I.A.のこと、ただのダンスホールには飽きたらずにバトゥカーダをミックスして、スリリングなグルーヴを作り出している。
04JIMMY
M.I.A.が5歳のときから歌っていたお気に入りという、82年のインド映画『ディスコ・ダンサー』挿入歌のカヴァー。世界的なディスコ・ブームを受けて制作されたオリジナルの4つ打ちビートを、あえてここではひねりを加えることなく忠実に再現している。
05HUSSEL
デビュー当初から彼女を支えてきたディプロと2ndの大半に参加するクリエイター、スウィッチのふたりがプロデュースに加わり、第三世界の厳しい現実をまざまざと見せつける。フィーチャリングのアフリカン・ボーイとは、コミュニティ・サイト“MySpace”を介して知り合ったとか。
06MANGO PICKLE DOWN RIVER
オーストラリア先住民のアボリジニ。その少年院で更正プログラムの一貫として行なわれたという、あどけなさの残るウィルカニア・モブなる少年のラップをベースにし、後にM.I.A.のパートなどを加えて作られた曲。ビートはシンプルながら力強い。
0720 DOLLAR
イントロから鳴り響くスネア・ドラムは銃声のよう。旧ソ連が共産圏に供与し、アフリカ諸国へと流れていったAK(自動小銃)が20ドルで売買されている現実を、銃声を模した連打と重苦しいビートに乗せて赤裸々に語るドキュメントだ。
08WORLD TOWN
世界各国を見て廻った彼女が目の当たりにした、メディアに乗りにくい人々の生きようや思いを曲に託すという、収録アルバム『カラ』のメイン・テーマでもある曲。弾丸の装填音のようなサウンドを使うなど、打楽器のインパクトが実に刺激的。
09THE TURN
純粋なラップ・チューンではなく、多くの部分でメロディのある歌を披露するヴォーカル・チューン。“私は北朝鮮に行った方が良いかもしれない”というセンセーショナルなラインが飛び出すものの、曲が醸す雰囲気は寂しさでいっぱいだ。
10XR2
ボルティモア・ブレイクス/バイレ・ファンキの流れながら、甲高いスネアの入り方やシンセ・ブラスを派手にかき鳴らすスタイルは90年前後のハウス的でもある。懐かしのテレビ・ゲームのサウンドをエフェクト的に挿入するなど、遊び心にあふれた曲だ。
11PAPER PLANES
舌っ足らず気味な歌い回しに油断してはいけない。これは、なかなか下りないアメリカの入国ヴィザにしびれを切らしたM.I.A.が投げつけた西洋社会に対する挑戦状であり、言いたいことを言えずにいる世界中の人々の背中を押す応援歌でもある。
12COME AROUND
ヒップホップからポップスまで幅広いアーティストに斬新なサウンドを提供するティンバランドとの運命的な共演作。ギターによる不穏な旋律などサウンド面はもちろん、M.I.A.のラップの合間に入るフレーズに至るまでティンバランドのカラーが支配的だ。
13FAR FAR
収録アルバム『カラ』のボーナス・トラック。彼がどこか遠く(=ファー・ファー)へと旅立ってしまった女性の想いが、コード感のないトラックに乗せてぶっきらぼうに歌われる。洗練された現代のポップスにはない、民謡のような素朴さがある。
14BIG BRANCH
収録アルバム『カラ』のボーナス・トラック。つきあっていた男を寝取られた女の怒りを、ダンスホール的なスタイルでぶつけるM.I.A.の姿が爽快だ。声をぶつ切りにし、音程を付けるサンプリング使いが初期ヒップホップを思わせる。
15WHAT I GOT
収録アルバム『カラ』のボーナス・トラック。ボルティモアのクリエイターであるブラックスターとの共作曲で、ボルティモア・ブレイクスを純粋に楽しむ彼女のさまは、無邪気と言っても良いほど。オールドスクール調のラップも痛快だ。