ミニ・レビュー
成功を収め成長した自身とストリート・ハスラーという二つの人格を対決させるというコンセプトによって制作された5作目。ギラギラとした鋭敏な前半とスマートで洗練された後半、そして「リスペクト・ディス・ハッスル」からの終幕と、高品位な構成力だ。ジェイ・Zはじめゲストも豪華。
ガイドコメント
グラミー受賞作『キング』に続く通算5作目のアルバム。エミネムやワイクリフ・ジーン、ジェイZら、豪華なゲスト/プロデューサーが集結。緊迫感にあふれたスリリングな作品に仕上げられている。
収録曲
01ACT 1: T.I.P.
T.I.の2つの人格があいまみえるというコンセプト・アルバム『T.I. VS T.I.P.』のイントロ。第1幕「T.I.P.」はT.I.の原点であるストリート・ハスラーという人格が語られる。胸騒ぎを禁じえない演出は、アルバムの幕開けにふさわしい。
02BIG THINGS POPPIN' (DO IT)
T.I.にとって久々のソロ・クレジットでの全米TOP10ヒット。T.I.好みのシリアスなトラックは一皮向けた南部サウンドに仕上がっているが、「ポップになんかならないぜ」との心意気も感じる男気にあふれた曲だ。
03RAW
客演では味わえない本物のT.I.がここにいる。お得意のダミ声の不穏なラップは健在。ゆったりしたテンポで迫る粘っこいビートも定番だが、派手なリズム・ヒットの迫力サウンドに進化を感じる作品だ。
04YOU KNOW WHAT IT IS
YOUNG JOCがブレイクさせた“表1発+裏2発ビート”の2ndシングル。ワイクリフ・ジーンとT.I.がコール&レスポンスで曲を盛り上げる。T.I.のきな臭いたたずまいをワイクリフが明るく相殺しているサウンドは、とてもキャッチーだ。
05DA DOPEMAN
マニー・フレッシュのプロデュースによるT.I.得意のストリートにおける生き様ソング。いつものT.I.らしく女性の影がまったくない硬派なサウンドだ。ディレイのかかったハンドクラップが銃声に聴こえてしまうアレンジには、武者震いがする。
06WATCH WHAT YOU SAY TO ME
遅いファンク・リフで押しまくる濃いサウンド。タイトルの「口のきき方に気をつけろよ」だけでいつものT.I.節が健在だ。T.I.のオシの強さに流されて、フィーチャリングのジェイ・Zまで“おまえらバカだ”とラップしているのが面白い。
07HURT
ティンバランドの片腕であるデンジャのプロデュースらしい、パワフルなダンス・ホール・サウンド。コミカルなホーン・フレーズを駆使した速い16ビートが、T.I.のラップを加速させる。バスタ・ライムスの耳をくすぐるパフォーマンスも絶好調だ。
08ACT 2: T.I.
T.I.が持つ2面性の謎が解かれるアルバム『T.I. VS T.I.P.』の第2幕への導入作品で、成功を収めセレブレティとして振舞う人格が語られる。T.I.、ジャスト・ブレイズを筆頭に、8人でパフォーマンスする演出が熱い。
09HELP IS COMING
ジャスト・ブレイズが仕立てる派手なシンセ・サウンドに抱かれて、T.I.が高速ラップをなめらかに披露する大作。T.I.のヒップホップ魂が怒涛のように襲いかかってくるリリックは、厚く上昇していくサウンドをさらに分厚くしている。
10MY SWAG
歌わないT.I.がテクノっぽいシンセ・フレーズをなぞる新規開拓曲。懐の深いリズムとワイクリフ・ジーンの情感あふれるコーラスが、T.I.の無機質な世界に新しい息吹きを持ち込んでいる。T.I.の貪欲なアーティスト魂が垣間見えて、興味深い。
11WE DO THIS
派手な展開が仕掛けてある、メリハリの効いたヒップホップ。特にAメロのオルガンの刻みフレーズと16ビートのバスドラの絡みが生み出すビートが心地良い。リズム・コンシャスなT.I.が気持ち良さそうにサビのフレーズを歌って(?)いるのも楽しげだ。
12SHOW IT TO ME
キャッチーなベース・ラインが印象的な生バンド・サウンド。フィーチャリングのネリーを意識したT.I.のなめらかなラップが爽快だ。ネリーが運んでくるポップな雰囲気とT.I.のぶれない男気の化学反応が冴えを見せる。
13DON'T YOU WANNA BE HIGH
古めかしいメロウ・サウンドにT.I.が無機質に絡んでいく。気ままにリズム・ヒットが配置されたアレンジが、リスナーを飽きさせない。T.I.サウンドにしてはめずらしくメロディアスなフレーズがふんだんに使われており、良い意味で欺いてくれる。
14TOUCHDOWN
エミネムがプロデュース、フィーチャリングで参加しているエミネム三昧の曲。T.I.とエミネムが手を組むといった内容だが、2人とも引き気味にラップしているところが意味深だ。メインのシンセやリズムも倦怠感が漂っていて、不思議な組み方になっている。
15ACT 3: T.I. VS T.I.P. THE CONFRONTATION
コンセプト・アルバム『T.I. VS T.I.P.』の第3幕のイントロ。ついに“T.I.”と“T.I.P.”が対峙するパートへ突入だ。どちらが本当のT.I.? 両方偽者? 両方本物? など、答えを探しながら聴いてほしい。
16TELL 'EM I SAID THAT
T.I.の魅力が最大限に発揮されるミドル・テンポの落ち着いたバウンス・ビート。ティンバランド臭のするデンジャのプロデュースは、マイナー・キーのシンセ・リフと洗練されたリズム・アレンジで、体に響く音を届けてくれる。
17RESPECT THIS HUSTLE
T.I.の2つの人格であるT.IとT.I.P.が共演する作品。サイケデリックなリフ・フレーズと重厚なリズムが絡み合うダビィ・サウンドだ。“オレのラップにフロウなんかいらないぜ”とばかりにリズム一辺倒に詰め込まれたラップが痛快だ。
18MY TYPE
オルガンとピアノが落ち着いたたたずまいのバラード・サウンドだが、T.I.のパフォーマンスはメロウにならない。リリックもあくまで「オレはすごい」節だ。安易にナヨナヨしないT.I.の頼もしさが詰まっていて心強い。
19THE HOTTEST
「ホワット・ユー・ノウ」や「トップ・バック」といったT.I.のヒット曲にみられるスケールの大きいループ・フレーズがサウンドの要だ。腰の据わったリズム・ヒットとT.I.の折り重なる脅しラップが無機質に迫ってきて、迫力満点。
20YOU AIN'T FLY
ほぼ展開なしのリフ一発勝負だけに、T.I.の丸裸のラップが楽しめる曲。南部テイストのビートだが、サウンドは安くない。T.I.が軽快なアプローチで曲をこなしているといった感じだが、計算づくのラップ・アレンジは説得力にあふれている。