ミニ・レビュー
約1年ぶりの9枚目。今回はグイグイ押すよりも、ゆったりと落ち着いたグルーヴで聴かせるような曲が中心で、より大人っぽい仕上がり。とはいえラテン、AOR、レゲエ、ロカビリーなどアプローチの幅広さや、ヒネリの利いたアイディアも随所にあり、やっぱり聴きどころ満載。
ガイドコメント
横山剣率いるクレイジーケンバンドの9thアルバム。ソウルフルなミドル・チューンをはじめ、“イイネ!”とファンを唸らせる極上のナンバーが満載。タイトルからもビリビリと刺激が伝わる意欲作だ。
収録曲
01INTRO:SOUL電波
02プレイボーイ革命
気高いジャズ・サウンドを庶民の音楽に変身させる、CKBの魔法が楽しめる4ビート。心地よくはねるウォーキング・ベースとピアノが心を軽くしてくれる。こんなになめらかな日本語があっただろうか? と思わせる魅惑のフロウに酔いしれたい。
03TIKI TIKI TROPICAL KINGDOM
CKBにしかできないボサ・ノヴァと歌謡曲を化学反応させた曲。自在のスケールで迫るオルガン・ソロや尺八っぽく歌に絡んでくるフルートがとても頭脳的。サウンドに溶け込む「脱力の美学」がギラギラ光りを放つ大人の歌だ。
04タオル
大人の夏を演出したいなら、チューブよりもサザンよりもCKBを推したい。ゆったりとした正統派16ビートが常夏の海岸へ連れて行ってくれる。さわやかな暑さを運んでくれるアコースティック・ギターとコンガのブレンドに身をゆだねたい。
05ヒルトップ・モーテル
アヴァンギャルドなリフに思わずたじろいでしまうCKB流歌謡Pファンク。ダンスホール・レゲエの要素も感じる腰の据わったビートが魂を揺さぶってくる。むせるようなアジアの空気と粋な歌詞“汚れた寝息”に、ノックアウトさせられること必至だ。
06SUNSHINE 888
落ち着いた80年代のブラック・コンテンポラリー。“ハネている”と“ハネていない”の狭間で、心地良いビートをたたき出すバスドラにやられてしまう。ぜいたくにも生楽器で楽しませてくれるこんな大人のR&Bは、若者には“耳の毒”だ。
07EYE CATCH 1:8月8日
08路面電車
“ダンス・ミュージックに国境はない”とばかりに、ここで繰り広げられるのは盆踊り・ミーツ・レゲエ。世界一ノリの良い日本語が躍動する生命力にあふれた曲だ。曲中の“発車だ! シャバダバ”のようなセンスを現役ラッパーたちには学んでほしい。
09バンコクの休日
タイの首都バンコクの街が持つ活気がそのまま音楽になったような曲。オリエンタルな雰囲気はないが、違和感なく聴けるスタックス・サウンドだ。アジア旅行のウキウキ感が開放感たっぷりに歌われる内容に、バンコク歴がある人はナンプラーが恋しくなるはず。
10モンスター・スピード
横山剣のリーゼント魂がうなりをあげるギンギンのロカビリー・サウンド。かっこいい茶目っ気が存分に楽しめる、ロカビリーのお手本のようなパフォーマンスが内臓に響いてくる。ゴー・ゴーで踊りたい面々には、この曲を是非オススメしたい。
11HEMI HEMI DODGE CRUISING
70年代前半にカッコ良かったサウンドが凝縮されている曲だが、古臭くはなく軽快な仕上がりだ。歯切れのいいホーン・セクション、オクターヴを多用したクラヴィネットやサイケデリックなギターを支えるスタックス風のリズムが、明るく切なく響く。
12EYE CATCH 2:横浜名物
13RISE&SHINE (w/Sami-T from TC Movements for Mighty Crown Ent)
どっしりとしたリズムが心地よい、古き良きレゲエ・サウンド。DJのプログラミングが圧倒的に多い2000年代のレゲエに慣れてしまっている面々には、是非この生サウンドを堪能してほしい。人の血が通った音が作り出す横揺れが一番気持ち良いのだ。
14SUMMER TIME
ミュート・ビートを思わせるダビーなハイセンス・裏ビート。レゲエを磨いて磨いて透明にしたらこんなサウンドができあがる。リード・ヴォーカルをとるCKBのディーヴァ・菅原愛子の引き気味のパフォーマンスが、横山剣と対照的で良い。
15LADY MUSTANG
70年代のハード・ロックを思わせるリズム・セクションに絡むホーン・サウンドは超強力。16分音符で細かく切れ込むベース・ラインとオルガンが体を躍動させる。歌メロと対になって展開していくホーンがとても冴えている。
16東京から来た女
CKB得意の歌詞で旅する無国籍ソング。横山剣のかすれた声がドドンパ・テイストのリズムに絶妙に溶け込んでいく新世代演歌ともいえる。ノー・エフェクトで勝負する横山剣の歌を、重要無形文化財に推薦したくなる曲だ。
17てんやわんやですよ (album version)
フジテレビ系ドラマ『今週、妻が浮気します』主題歌のアルバム・ヴァージョン。日本語で「韻」がふめるのか? という問いに対しての答えがここにある。モンゴロイドにも踊る権利がある! と声高に宣言したくなる衝動が、体中をかけめぐる艶ソングだ。
18NOSSAN'S WORKOUT
70年代のハード・プログレッシヴ・ロックを大復活させたパワフルなインストゥルメンタル曲。バリバリに歪んでいないところがよりヘヴィさを演出している温故知新のサウンドだ。風格漂う小野瀬雅生のギター・プレイに熱い郷愁を感じる。
19EYE CATCH 3:お盆休み
20生きる。
オルガンとピアノが大活躍するシャッフル・ビートのゴスペル・サウンド。日本人が最も不得意なリズムだが、CKBはいとも簡単に「邦楽」にしてしまう。横山剣のソウルフルなヴォーカルが感情に訴えかけるチア・アップ・ソングだ。
21RESPECT!OTOSAN
団塊の世代の“お父さん”への謝辞が軽妙に語られるトリビュート・ソング。スクウェアな16ビートにベース・ラインが8ビートで絡んでいく、裏切りビートが楽しい。“玄関”を“げえええええんかあん”と歌っているところが、素直でなくて良い。