ミニ・レビュー
各地夏フェスにも出没していた矢野顕子とレイ・ハラカミから成る“新人ユニット”の1作目。過去への決別を歌った矢野作品「気球にのって」の再演から始まるというのが、なんともすごい。とはいえハラカミの打ち込み含め清新な仕上がり。「La La Means I Love You」の情感にも泣かされる。★
ガイドコメント
矢野顕子とレイ・ハラカミによるプロジェクト、yanokamiの2007年8月発表のアルバム。矢野顕子のセルフ・カヴァー曲が中心の構成で、レイ・ハラカミのエレクトロニカ・オーケストレーションにより、新たな魅力が付加されている。
収録曲
01気球にのって
1976年に発表された矢野顕子のデビュー・アルバム『JAPANESE GIRL』収録のナンバーが、奇才レイ・ハラカミの手によって鮮やかにリニューアル。綿菓子のような歌声と柔らかな手触りのアンビエント・トラックが合体した、夢心地のポップスだ。
02David
オリジナルは矢野顕子の『峠のわが家』(86年発表)に収録され、フジテレビ『やっぱり猫が好き』の主題歌として知られたミッド・バラード。静かな雨音のような美しいピアノと複雑なリズムパターンが交錯する、アヴァンギャルドなチューンに生まれ変わっている。
03終りの季節
オリジナルは、細野晴臣の1stソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』(1973年発表)収録。矢野顕子が84年に『オーエス オーエス』でもカヴァーした名曲に、新たな魂が吹き込まれた。シンプルなトラックに乗せられた美しい詞に、心打たれる。
04おおきいあい
オリジナルは、87年に発表された矢野顕子の『GRANOLA』に収録。レイ・ハラカミの手から紡ぎ出されるリズムは、クールな中にもラテンの陽気さが見え隠れして、矢野顕子の包容力ある歌世界と絶妙に合う。聴く者の心に広がりゆく、“おおきいあい”だ。
05Too Good to be True (yanokami version)
オリジナルは、2004年に発表された矢野顕子の『ホントのきもち』に収録。レコーディング曲として、矢野顕子とレイ・ハラカミが初めて正式にコラボレーションしたナンバー。このyanokamiヴァージョンでは、新たにイントロがつけ加えられた。
06You Showed Me
オリジナルはタートルズ(1968年発表)だが、バーズ(1969年発表)のヴァージョンが有名。矢野顕子のオリエンタルな歌声とレイ・ハラカミのボーダーレスなアンビエント・マジックが織りなす音世界に、思わずうっとり。
07La La Means I Love You
オリジナルはデルフォニックス(1968年発表)で、ジャクソン5ほか数多くのアーティストがカヴァー。「ララは愛の言葉」の邦題でもおなじみのソウル・バラードが、yanokamiの手にかかるとオシャレでポップなラヴ・ソングに。
08Night Train Home (yanokami version)
オリジナルは、2004年に発表された矢野顕子の『ホントのきもち』に収録。くるりの岸田繁と共作した歌詞とレイ・ハラカミの斬新なトラックで話題を呼んだが、このyanokami版はまた別ミックス。走り続ける夜行列車を模したアウトロに胸が熱くなる。
09Full Bloom
矢野顕子とレイ・ハラカミの共作による、書き下ろしの初オリジナル曲。楽器のごとき矢野顕子の歌声とレイ・ハラカミのオーケストレーションが一体となった音模様は、実に神秘的。“満開”というタイトルのとおり、大輪の花が咲いていく様子は感動的ですらある。
10恋は桃色
2007年4月にリリースされた細野晴臣のトリビュート・アルバムに収録され、yanokami名義で正式にデビューを飾った記念すべきナンバー。細野晴臣のオリジナル(1973年)に匹敵する衝撃を持つ、無垢で極上のアンビエント・ポップスだ。