ガイドコメント
盲目のギター・ソウル・シンガー、ラウル・ミドンの2ndアルバム。最大の魅力である超絶なギター・プレイと魂に響くヴォーカルが精彩を放っている。全編を覆う温かくソウルフルな雰囲気も心地良い。
収録曲
01PICK SOMEBODY UP
歯切れの良いアコースティック・ギターやコンガによる70'sスタイルのサウンドに乗せ、「誰かを元気にしたい」という自身の音楽に対する原動力について高らかに宣言するファンキーな曲。ラウルはスポークン・ワーズ的なラップにも挑戦している。
02LOVE IS GONNA SAVE MY LIFE
トレード・マークのアコースティック・ギターにワウ・ギターが絡みつく粘着性のあるファンキー・チューン。ゆったりとしたテンポなのに、異様なほどグルーヴィで熱く、それでいて爽快感もある。サビ部分のコーラスのハーモニーは特筆すべき美しさだ。
03ALL THE ANSWERS
パーカッションを交えた軽快なグルーヴがひたすら心地よいアップ・ナンバー。ラウルご自慢のマウス・トランペット(口でトランペットの音を真似たもの)や“東京はいま何時?”なんて歌詞が飛び出すのも、日本贔屓のラウルらしいところ。
04AIN'T HAPPENED YET
肉声とハンドクラップ、ボディ・パーカッションだけのシンプルな構成。楽器に一切頼ることなく、ラウルとプロデューサーのジョー・マーティンのふたりの声と身体で作り上げたドゥー・ワップ調のア・カペラ曲。時代とともに失われつつあるハーモニーの妙がここにはある。
05ALL BECAUSE OF YOU
“みんな君のおかげだよ”と、ラウルの音楽活動を支える彼の妻に捧げられたラヴ・ソング。白地の多い絵のように、敢えてベースを入れることなくスペースを広く取ったアレンジが、歌の主題そのものをよりストレートに伝えている。
06THE MORE THAT I KNOW
爽やかでおおらかな景色が広がるナチュラルなサウンドをバックに、運命や神といった宗教的なテーマを歌う壮大な曲。盲目のシンガーであるラウルは、“目に見えるものではなく、触れるもの”のイメージをそのまま曲に盛り込んでいる。
07TEMBERERANA
ラウルのルーツのひとつであるアルゼンチンの音楽をベースにした曲。歌詞は英語だが、フォルクローレのリズムのひとつであるカルナバリートを取り入れたサウンドやサビでの歌い込んだヴォーカルは、完全に南米スタイルだ。タイトルは彼自身による造語。
08SONG FOR SANDRA
“あの女がいなくなって本当にせいせいしたよ”と強がって見せるが、ラウルのギターはむせび泣いているかのごとき寂しさを放っている。これは、彼が4歳ぐらいの時に亡くなったという、母親に対する複雑な想いを曲にしたためたもの。
09CAMINANDO
2ndアルバム『世界の中の世界』のなかで唯一のスペイン語ナンバー。盲目の彼が“祖母の家から自分の家まで歩いて帰ることの難しさ”を歌ったものだという世界は牧歌的であるのと同時に、世間を生きていくことの難しさを物語っているかのようでもある。
10PEACE ON EARTH
この世に未来はない、話し合っても何も解決は望めない……。いっこうに止まぬ戦争・紛争に対して悲観的な見解を述べつつ、「互いに核を持ち合うことがすべての人に平和をもたらす」という相互確証破壊の有効性を説く、明快なメッセージ・ソング。
11MONEY BUYS HAPPINESS
きれいごとを並べながらも“幸せは金で買える”と信じて疑わない世間に対しての皮肉をしたためた曲。マーヴィン・スーウェルのレゾネーター・ギターとラウルのアコースティック・ギターという、ツイン・ギターによる激渋ブルース。