ミニ・レビュー
椎名林檎は歌と作詞に専念した3作目。作曲は男性メンバーが分担している。演奏と編曲の達者さが強調されて聴こえるのは、そのせいか。反面、林檎のヴォーカル・パワーはやや後退した印象。ソロとバンドをどう棲み分けていくか、岐路に立ちつつあるということかも。
ガイドコメント
東京事変の3rdアルバム。個性的なメンバーの演奏と圧倒的な存在感を誇る椎名林檎のヴォーカルが、彼ららしい壮大な世界観を提示している。タイトルどおり、存分に楽しませてくれる一枚だ。
収録曲
01ランプ
ヴォーカリスト・椎名林檎の魅力が堪能できるアルバム『娯楽(バラエティ)』のオープナー。ジャズ・テイストのメロディをひらりと歌いこなすさまは、たまらなくキュートだ。軽快なリズムと小粋なエレピが印象的な、洒落たポップ・チューンに仕上がっている。
02ミラーボール
チョッパー・ベースの先導で快調に飛ばす、アッパーなダンス・ロック・チューン。フィルターを通すことで逆にセクシーさを増した椎名林檎のヴォーカルに、タイトなドラムとファンキーなエレピが絶妙に絡む。ギターの浮雲が作詞・作曲を担当。
03金魚の箱
キーボードの伊澤一葉が椎名林檎のイメージで書き上げた作品。“金魚姫”のキーワードが七変化するヴォーカルにぴったり。ブレイクのソロでは、各メンバーの激テクが聴ける。京極夏彦原作の映画『魍魎の匣』(2007年12月公開)エンディング・テーマ。
04私生活
シンプルかつタイトなバンド演奏をバックにしたミッド・バラード。プロデューサーとしても名高いベーシスト亀田誠治が書いた奥行きのあるメロディと良質の短編小説のような椎名林檎の言葉が、ささくれた心の傷に染みこんでいく。
05OSCA
2007年のシングル第1弾は、ギタリストの浮雲が作詞・作曲を担当したワイルドなロック・チューン。一曲の中に数曲分の要素が組み込んだような展開の速い構成で、歌唱に専念した椎名林檎のぶっ飛んだヴォーカルが、曲にさらなる加速度を与えている。
06黒猫道
東欧の舞曲を思わせるピアノのフレーズが印象的なハイ・テンポのナンバーで、キーボードの伊澤一葉が作曲。クラシカルな香りとアヴァンギャルドな空気が交錯する、クロスオーヴァーな楽曲だ。黒猫を主人公にした椎名林檎の歌詞がユーモラス。
07復讐
ホラー映画の主題歌に抜擢されそうな、英詞のヘヴィ・ロック・チューン。ゆらゆらと空間を泳ぐドラム、不吉な予感を漂わせたベース・ライン、刃物のようなギターを踏み荒らしながら、椎名林檎のシャープなヴォーカルが吠える。
08某都民
ギターの浮雲、キーボードの伊澤一葉、椎名林檎の3人がヴォーカルをとる異色作。ラップを交えたラウンジ調のサウンドに、サブカル風の歌詞が乗っている。敏腕アーティスト集団である東京事変ならではのウイットに富んだインテリジェントなナンバー。
09SSAW
キーボードの伊澤一葉と椎名林檎がユニゾン・ヴォーカルで歌うデュエット・ソング。恋人たちの春夏秋冬を綴った歌詞に柔らかな音色のエレピが寄り添う、和やかなミッド・ポップ・チューンだ。最後のヴァースでのハーモニーにホロリとさせられる。
10月極姫
レイ・マンザレクを連想させるキーボード・ワークがユニークなミッド・ポップ・チューン。70年代調サウンドとエロティックな歌詞がバッチリはまっている。フレーズごとに表情を変える椎名林檎のシアトリカルなヴォーカルも聴きどころ。
11酒と下戸
作曲者である伊澤一葉のピアノをメインにした、バロック調のミッド・チューン。椎名林檎のノスタルジックなヴォーカルと文語口調があいまって、大正浪漫的な音世界が展開される。鮮やかな転調と変拍子に耳を奪われる、音楽美を極めたナンバーだ。
12キラーチューン
カントリー・テイストのギターやスウィング感をたたえたビート、ロマンティックな鍵盤と爽快にして狂おしいヴォーカル。これらがひとつになった、キラキラとしたダンサブルなナンバー。東京事変のクセのあるポップ感覚が、全面に押し出されている。
13メトロ
フィルター越しにぬくもりが伝わる椎名林檎のヴォーカルとフュージョン風味の演奏が小気味よい、ミッド・ロック・チューン。張り詰めたテンションを一気に冷ます穏やかさのある、アルバム『娯楽(バラエティ)』のクローザーだ。作詞作曲はギターの浮雲。