ミニ・レビュー
ほとんど曲間のないダンス・オリエンテッドな作風にして、耳に焼き付くメロディックないい曲揃い。欧州ハウス系(!)の数曲にもプライベートな彼ならではの響きがあり、歌にラップにと大奮闘。制作業にも多忙なブラック・アイド・ピーズの中核が発表した待望のソロ作。
ガイドコメント
“ブラック・アイド・ピーズの頭脳”ことウィル・アイ・アムの2007年9月発表のソロ・アルバム。独特のサンプリング・センスや中毒性の高いメロディ・メイキングが遺憾なく発揮された一枚だ。
収録曲
01OVER
エレクトリック・ライト・オーケストラの「イッツ・オーヴァー」を拝借した、アルバム『ソングス・アバウト・ガールズ』の冒頭曲。“愛は終わり、気分はダウン、ダウン……”という虚無感を歌う。ビートルズ作風のブリッジが入るなど、演出が細やかなミッド・チューン。
02HEARTBREAKER
ナールズ・バークレーのシーローがバック・ヴォーカルで参加したミッド・チューン。“ゴメン、傷つけるつもりじゃなかった……”と男の憔悴した様子を歌った内容。中盤までは軽快に進むも、悲しみに暮れるようなギター&ベースがいい味を醸すアウトロへの展開が秀逸。
03I GOT IT FROM MY MAMA
今はイケてる彼女でもそのママが不細工なら娘もそうなるよという、男性へのキツイ忠告ソング。イントロからこの楽曲のサウンドのノリを支えているのは、87年にマガジン60が放ったスマッシュ・ヒット「ドン・キホーテ」のループだ。
04SHE'S A STAR
ポロウ・ダ・ドンのプロデュースによるミディアム・スロー・チューン。全体的にじわじわと不穏な空気や緊張感が走るようなマイナーなメロディ・ラインだが、内容は“愛する人は俺のスターさ”というラヴ・ソング。終盤の“ブリン、ブリン”で緊張がほぐれる感じだ。
05GET YOUR MONEY
M.A.N.D.Y.vsボッカ・シェイドのフロア・ヒット「ボディ・ランゲージ」を大胆に配したファンキー・ハウス。勢いよく挟み込まれるギターとエレクトロ・ハウス特有の浮遊感の融合が斬新。内容は、ストリッパーはビジネス・ライクで金を稼ぐという話。
06THE DONQUE SONG
スヌープ・ドッグをフィーチャーしたアッパー・チューン。中毒性の高い変態的なビートを配したアンビエントなダンス・トラックだが、歌ってるのは“彼女のオシリはでっかいぜ!”というチープな内容。“ダ・ドン、ダ・ドン”というフレーズも病みつきに。
07IMPATIENT
カニエ・ウェストをフィーチャーしたエステルのヒット曲「アメリカン・ボーイ」の元ネタ。ほぼインストのような、80年代的なアプローチを施したテクノ・ビートの上で繰り返し歌われるのは、“君の愛が待ちきれないぜ”というシンプルなメッセージだ。
08ONE MORE CHANCE
フェルナンド・ギャリバイのプロデュースによるダンス・チューン。ウィル・アイ・アムがライミングから歌唱へと大車輪のごとく活躍しており、“もう一度チャンスをくれたなら今度こそ思う存分愛してみせるよ”と歌っている。
09INVISIBLE
彼女にとって俺は“透明人間”みたいなものだったのさと、恋愛の終焉を綴ったナンバー。アコギが特に印象的な、いたってシンプルに刻まれていくリズムと抑え気味のヴォーカルが、状態の深刻さと嫌悪感を物語っている。
10FANTASTIC
引用は、Z・トリップがリミックスしたジャクソン5「帰ってほしいの」(アイ・ウォント・ユー・バック)。ヴォーカルのメロディ・ラインではビートルズ「ヘルプ」を想起させるようなフレーズも。恋人関係が終わった後の心境を“ファンタスティック”と表現している。
11FLY GIRL
女性へのプロポーズ・ソング。“君だけがいれば誰も必要ないよ”というコーラスを後押ししているのは、意志の強さを感じさせるキレのいいパーカッションのリズム。“エイ! エイ!”というおどけたフレーズも出るが、それと紳士的なギャップがウィルの真骨頂か。
12DYNAMITE INTERLUDE
アルバム『ソングス・アバウト・ガールズ』収録のインタールード。マイケル・ジャクソン「スリラー」を想起させるスリリングなコーラスとギターを中心に進められる1分20秒のトラックだが、詞の内容は“こっちに来て愛し合おうぜ”というお誘いソング。
13AIN'T IT PRETTY
ファーギー「ロンドン・ブリッジ」でも知られるポロウ・ダ・ドン制作によるミッド・チューン。“彼女ってラヴリーだよね”“なんてカワイイんだ、彼女”という男視線の単なるナンパ・ソングだが、“後光が差してるよ”とまで言い切る軽薄さがウィルらしい。
14MAKE IT FUNKY
ウィル自身制作の、ブラジルのバイレ・ファンキのヴァイブスを盛り込んだアッパー・ファンク。分厚いボトムと下世話さを醸し出す照りのあるサウンドが魅力で、ゲットー感とオリエンタルが見事に融合したダンス・トラックへと昇華している。リオ・デ・ジャネイロ録音。
15S.O.S (MOTHER NATURE)
女の子のことばかりを歌った『ソングス・アバウト・ガールズ』というアルバムにあって、唯一シリアスなテーマを掲げたミディアム・トラック。愚かな争いや金に目がくらんで止まない人間の現状に際し、“天使を地球に送って救ってくれ”と神に懇願している。
16MAMA MIA
レイ・チャールズ「ホワット・アイド・セイ」をサンプリングするという意外性が効いているビート・ナンバー。“ママ・ミア、ママ・ミア”という軽いノリのフレーズに見合うように、男が“アンタは要なし、もう新しい彼女と毎晩楽しんでるから”と告げる三行半ソング。
17SPENDING MONEY
彼女のために銀行ごと金を使おうとうそぶく究極の金持ちソング。“オレは金以外何もないけど”“愛は金で買えないっていうけど彼女を手に入れたぜ”と嫌味にも聞こえるフレーズが続くが、軽快なリズムとひょうきんさを持ち合わせたトラックによって溜飲を下げている。
18DAMN DAMN DAMN
リル・ジョンのプロデュースによるクールなビート・トラック。だが、リリックは“彼女のメロンみたいな胸をつかみたい”だの“リンゴのようなオシリにかじりつきたい”だのという単なる男の欲望ソング。タイトルは“マジですげえ!”“最高だぜ”というスラング。