ミニ・レビュー
米人気ラッパーのアルバム(通算3枚目)。本名からタイトルが付けられているように、よりパーソナルで、また多くのゲスト、そしてプロデューサーを迎えるなど、これまでとはやや異なる内容だ。新生50セント、いずれにしても相変わらず堂々とした風情がカッコいい。
ガイドコメント
50セントの3rdアルバム。ドクター・ドレーが手がけたリード・トラック「ストレイト・トゥ・ザ・バンクス」をはじめ、エミネムやロビン・シックら豪華すぎる面々が参加。期待を上回る出来栄えだ。
収録曲
01INTRO
映画『SHOOTERS』の1シーンが切り取られているアルバム『カーティス』のイントロ。メキシコなまりの英語で銃の使い方が語られる。「ウィンドウ・ショッパー」や「キャンディ・ショップ」といったやわなヒット曲と決別するような、不穏な幕開けだ。
02MY GUN GO OFF
一曲丸ごとバックに銃声が鳴りまくる曲も珍しい、ギャングスタなイメージを大事にする50セントならではのきな臭い曲。ギターの単音フレーズが弾丸を装填する音にも聴こえてしまうほどだ。曲の内容をすべての音で補足しているようなアレンジになっている。
03MAN DOWN (CENSORED)
リズムの打点が強調されるサウンドと遅れ気味のピアノのフレーズがずれながら曲を盛り上げる。ゴリゴリしたシンセ・ベースのうねりがサウンドを締めるエレクトロ・ヒップホップと、50セントの特徴である歯切れの悪い狂おしいラップが楽しめる。
04I'LL STILL KILL
エイコンの歌声とツボをおさえたメロディがメランコリックに響くヒット狙い曲。ソングライターにも名を連ねているエイコンの派手な作風に影響されたのか、50セントのラップもポップで聴きやすくアレンジされている。
05I GET MONEY
定番のサンプリングが曲をヒットに導く南部サウンドのシングル。“稼ぐぜ、稼ぐぜ”と繰り返されるリリックは、ヒップホップの伝統に少しも背いていない。50セントが芝居っけたっぷりに“稼ぐ男”の日常生活を軽い声でラップしている。
06COME & GO
サウンドが厚くなくても充分に曲に厚みを与えることができる、50セントの面目躍如だ。オケ・ヒットと簡素なリズム・プログラミングのシンプルなトラックに、50セントの低音が絡んでいく。突然、中間部で歌いだすパフォーマンスも買いだ。
07AYO TECHNOLOGY
50セントがフィーチャリングのジャスティン・ティンバーレイクとティンバランドに完全に食われているヒット・シングル。プロデュースもティンバランド&デンジャの名コンビだが、50セントの色がうまく出せなかったところに、この曲が持つ面白さを感じる。
08FOLLOW MY LEAD
アルバム『カーティス』のハイライト曲。美しいピアノのフレーズに少しずれて絡むリズムがもの憂げで切ない、古くて洗練されたR&Bだ。フィーチャリングの白人R&Bシンガー、ロビン・シックが50セントをメロウな世界にいざなっている。
09MOVIN ON UP
ストリングスとホーンの絡みがリッチなネタは、ミラクルズの「GIVE ME JUST ANOTHER DAY」。50セントが作り出すタイトル・コールのフロウがかっこいい。スネアのヒットと重なるホーン・アレンジは、火薬の匂いがするようだ。
10STRAIGHT TO THE BANK
アルバム『カーティス』からのキャッチーな1stシングル。バスドラ、スネア、ピアノ、ベースが一体となり打ち続ける4分音符リズムの上で、タイトル・コールの歌メロをなぞるシタールが乱舞する。シンプルで聴きやすいヒップホップだ。
11AMUSEMENT PARK
浮遊するオルガン・フレーズと歌うようなベース・ラインが、邪魔しあわずに存在しているトラックは出色の出来。よれるように聴く者をあざむくハイレベルなリズムにのって、50セントが無骨に歌うメロディはなかなか美しい。
12FULLY LOADED CLIP
モブ・ディープのハヴォックのプロデュースだけに、トラックがとても前衛的だ。バスドラと区別がつきにくいベース・ラインやダビーなヴォイス・リフが、50セントをヒップホップの別室にいざなう。メロディを一切廃したリズム一辺倒のサウンドに、心地よく降参だ。
13PEEP SHOW
エミネムがフィーチャリングとプロデュースで参加している友情曲。50セントをべた褒めするエミネムの参加とあってか、50セントが心地良さそうにラップしているのが印象的だ。挙げ句の果てに50セントが節つきのラップまで披露してしまうオチが心憎い。
14FIRE
プッシー・キャット・ドールズのニコール・シャージンガーが、“ファイアー!!”と叫んで始まる熱い曲。プロデュースにドクター・ドレー、ヤング・バックも参加しているぜいたくな布陣だけに、サウンドが焦り気味にパフォーマーと戦っているようで面白い。
15ALL OF ME
ホーン・フレーズが跳ね回るカーティス・メイフィールド風のソウル・トラックに心を奪われる。50セントのラップにR&B界の大姉御メアリー・J.ブライジが襲い掛かる演出は秀逸。炎のような歌唱に50セントはただ立ち尽くすだけだ。
16CURTIS 187
モブ・ディープのハヴォックのプロデュース・ワークが光るサウンドは、カントリー・ヒップホップといったたたずまいだ。繰り返されるベースのスケール・フレーズが、多彩なフロウで迫る50セントのすごさを気づかせてくれる。
17TOUCH THE SKY
コード進行から曲を作っているアーティストたちは心して聴くべし。ワン・コードでもこんなに広いフィールドがあることを教えてくれる曲だ。派手なフレーズがあるわけでもなく無骨に押し切る曲だが、これがヒップホップの真骨頂だ。
18SMILE (I'M LEAVING)
高音のストリングス・フレーズとエレピのブレンドがとてもリッチなメロウ・サウンド。スネア・ヒットがハンドクラップになっていて、さらに優しく響く工夫が施されている。こんなきれいな曲が『カーティス』日本盤のみの収録なんてもったいない!!