ミニ・レビュー
35枚目のアルバムは、1曲目から、近頃目にしなくない醒めた狂気を、唸り、叫ぶかのような歌唱に秘めて演じる凄みと出会う。時には歌を聴き手に放り投げるかのようであったり、慈しんだりと多彩な表情で歌を聴かせる。『世界ウルルン滞在記』のテーマ曲「一期一会」も収録。
ガイドコメント
通算35枚目となるアルバム。TOKIOに提供した「本日、未熟者」をはじめ、独特の感性と人物描写がソリッドかつストレートなサウンドにのせて表現されている。深く胸に突き刺さるメッセージが満載だ。
収録曲
01本日、未熟者
“あがいて もがいて 1日がゆく”。シャープなホーンと雄々しいギターを従えて、大地の底から聴こえてくる、あの声。甘い誘いをことごとく蹴り続け、まっすぐ生きる不器用な“未熟者”の姿を歌う、ヘヴィ・ロック調のミッド・スロー・ナンバー。
02顔のない街の中で
見知らぬ人のことならば、笑顔も痛みも気にならないだろう。“ならば見知れ 見知らぬ人の命を/思い知るまで見知れ”と歌う中島みゆきの声は、どこまでも潔い。ポップなメロディに乗せた真実の言葉とともに、スライド・ギターの音色が優しく沁みる。
03惜しみなく愛の言葉を
“明日を憂えず 今日咲き尽くす1日の花”が紡ぎだす、惜しみない愛の言葉の美しさよ。ゆったりとしたリズムとチェロの味わい深い音色が、疲れた身体をじんわり包んでくれる。眠りにつく前に聴きたい、3拍子の優しいララバイ。
04一期一会
05サバイバル・ロード
“共にゆける者はないのか”それは呼びかけか、諦めか。アップ・テンポのサビからミッドのAメロへと巧みにギア・チェンジして走り抜ける、みゆき流ロック・チューン。所詮、この街はサバイバル・ロード。迂回路はどこにもない、と凛として歌う。
06Nobody Is Right
“正しさと正しさとが 相容れないのはいったい何故なんだ”。誇らしげなホーンのファンファーレで幕を開ける、中島みゆき版ゴスペル・ナンバー。ソウルフルな女性コーラスをバックに歌う“正しい者などいない”というメッセージが胸に響く。
07アイス・フィッシュ
“氷の魚”という謎めいた喩えとヴィブラートの効いたファルセット・ヴォイスが、ミステリアスなミッド・ナンバー。童歌に通じる日本的なメロディ、ハイランド・ハープとティン・ホイッスルを主体にしたアレンジが、オリエンタルな趣を醸している。
08ボディ・トーク
“言葉はなんて弱いんだろう”。叩きつけるような言葉と鬼気迫る歌声。眼前の海を見つめながら言葉を探す男女の姿が、リアルに浮かんでくる。歌謡曲風の懐かしい曲調に渋いサックスをフィーチャーしたミッド・ロック・チューン。
09背広の下のロックンロール
誰も気づかないさ、スーツの下に隠された本当の姿。歌姫・中島みゆきが力強く歌い上げるミッド・テンポのロックンロールに、寡黙に働き続ける団塊世代はノック・アウト必至だ。にぎやかなブラスと哀愁を帯びたハモンドの音色が、さらに泣きのツボを押す。
10昔から雨が降ってくる
11I Love You、答えてくれ
こぶしの効いた独特の絶唱で、アルバムのラストを飾るタイトル・トラック。“惚れたほうが損になるなんて 取引や投資じゃあるまいし”。フォーク・テイストのソフトなメロディにくるまれた、ストレートなメッセージがずしりと響くミッド・スロー・チューン。