ミニ・レビュー
スタジオ録音のフル・アルバムとしては実に28年ぶりとなるアルバム。どの曲にも彼らにしか奏でられない独特の雰囲気があり、長い歳月の隙間を埋めてくれる。現代社会への批評性・メッセージ性に富んだ歌詞と併せ、イーグルスらしさが全編に漲る大作だ。
ガイドコメント
1979年の『ロング・ラン』以来、28年ぶりとなるイーグルスのフル・スタジオ録音アルバム。いくら年を重ねようが、イーグルス・サウンドは健在。胸をキュンとさせながらもじっくりと味わいたい。
収録曲
[Disc 1]
01NO MORE WALKS IN THE WOOD
米国の詩人/文学者、ジョン・ホーランダーの詩にドン・ヘンリーとステュアート・スミスが曲をつけたア・カペラ。人の手によって木々が刈り倒され、憩いの場であった森が失われていく森林破壊をテーマにした詞が胸に迫る。
02HOW LONG
イーグルスの盟友ともいえるシンガー・ソングライター、J.D.サウザーの1972年のデビュー作に収録されていたナンバー。疾走感あふれるサウンドが小気味よいカントリー・ロック・チューンで、コーラスもバッチリ決まっている。
03BUSY BEING FABULOUS
ドン・ヘンリーとグレン・フライの共作によるミディアム・チューン。夜毎、街に繰り出しては空騒ぎや空虚なパーティに耽る恋人を冷ややかに見つめる男の視線が、イーグルスらしい陰りのあるサウンドに乗ってシニカルに綴られている。
04WHAT DO I DO WITH MY HEART
愛する人と別れるときの揺れ動く男の心境を描いた、グレン・フライとドン・ヘンリーの共作によるスロー・ナンバー。グレンの力強いヴォーカルとそれを柔らかく包み込むようなコーラスが、美しいコントラストを聴かせている。
05GUILTY OF THE CRIME
ブリティッシュ・ブルー・アイド・ソウルの名シンガーとして名を馳せたフランキー・ミラーの作品で、彼と親交のあるジョー・ウォルシュがリード・ヴォーカルを務める。ソウルフルかつエッジの効いたサウンドが印象的なナンバーだ。
06I DON'T WANT TO HEAR ANY MORE
エースやスクイーズなどに在籍していた英国の名シンガー・ソングライター、ポール・キャラックの作品。夕暮れ時が似合いそうなメランコリックなバラードで、ティモシー・B・シュミットが持ち味のスウィートなヴォーカルでカヴァー。
07WAITING IN THE WEEDS
夏から秋へと移りゆく季節の中、過ぎ去った日々に思いを巡らす大人の姿を綴ったスロー・ナンバー。柔らかなアコースティック・サウンドとドン・ヘンリーの苦味のあるヴォーカル、美しいハーモニーが、曲の世界観にマッチしている。
08NO MORE CLOUDY DAYS
心が離れかけていた恋人にもう一度やり直そうと語りかける、グレン・フライ作のミディアム・ナンバー。グレンのジェントルな歌声と軽快なメロディが溶け合い、聴き手を優しく包み込む。後奏のサックスが曲に彩りを添えている。
09FAST COMPANY
ソウル/ファンクの要素も取り入れ、サウンドもホーン・セクションを大胆に導入した、ドン・ヘンリーによるヘヴィかつアグレッシヴなナンバー。利益至上主義、結果重視の風潮が蔓延する現代社会への、シニカルな視線が込められている。
10DO SOMETHING
ドン・ヘンリーとティモシー・B・シュミット、ステュアート・スミスによる作品。温もりのあるアコースティック・サウンドをバックに、ティモシーが甘く瑞々しい声でリードをとり、端正なハーモニーが華を添える美しいナンバーだ。
11YOU ARE NOT ALONE
イーグルスからの応援ソングともいえる、グレン・フライ作のフォーキーなナンバー。“すべての苦しみや哀しみ、孤独な夜、憂鬱な明日に別れを告げるんだ”“お前は一人じゃない”と優しく歌われる詞が、聴く人に元気を与えてくれる。
[Disc 2]
01LONG ROAD OUT OF EDEN
アルバム『ロング・ロード・アウト・オブ・エデン』の根幹をなす、ドン・ヘンリー作の10分超の壮大なナンバー。『ホテル・カリフォルニア』から30年が過ぎ、楽園ははるかに遠のいた。懊悩を深めるばかりのアメリカや世界に対し、ドンの悲痛な歌声がこだまする。
02I DREAMED THERE WAS NO WAR
荒涼とした大地に爽やかな風を吹き込み、温かな陽射しが照り込んでくる。そんな平和で穏やかなイメージを想起させる、グレン・フライ作のインストゥルメンタル。1分半ほどの小品だが、ギターの音色がジンワリと胸に染みてくる。
03SOMEBODY
イーグルス初期のヒット曲「ピースフル・イージー・フィーリング」の作者、ジャック・テンプチンによる作品。ハードさとまろやかさが同居したイーグルスらしいギター・アンサンブルをバックに、グレンが気合いの入った歌唱を聴かせる。
04FRAIL GRASP ON THE BIG PICTURE
エッジを効かせたギター・サウンドとタイトなリズムが印象的な、ドン・ヘンリーとグレン・フライの共作曲。過去の過ちをすぐ忘れ、同じことを繰り返す人々に醒めた視線を投げ掛けるシニカルな詞を、ドンが表情豊かに歌い綴っている。
05LAST GOOD TIME IN TOWN
エキゾティックな雰囲気を醸すメロディやパーカッシヴなサウンドが、どことなくスティーリー・ダンを思わせるジョー・ウォルシュの作品。アメリカ版ひきこもり中年の姿を描いた詞が、可笑しみと同時にペーソスを誘うナンバー。
06I LOVE TO WATCH A WOMAN DANCE
米国のヴェテラン・シンガー・ソングライター、ラリー・ジョン・マクナリーの作品。マンドリンやアコーディオンを取り入れたマイルドな調べに乗って、女性の踊る姿を見つめる男の心情をグレン・フライが切々と歌うスロー・ナンバー。
07BUSINESS AS USUAL
変化のない日常に埋没し、気が付けば良識は時代遅れとなり、拝金主義が蔓延する。そんなアメリカ社会への憤りを綴った、ドン・ヘンリー&ステュアート・スミスによるヘヴィ・チューン。日本の現状にも当てはまる歌詞が痛切に響く。
08CENTER OF THE UNIVERSE
ドン・ヘンリーとグレン・フライ、ステュアート・スミスによる作品。気恥ずかしい邦題はさておき、愛しい人に偽りのない想いを告げる男の姿が、アコースティカルな調べに乗せて切々と歌われる。ロマンティックなスロー・ナンバーだ。
09IT'S YOUR WORLD NOW
グレン・フライとジャック・テンプチンの共作曲。メキシコ音楽のメロディを取り入れた美しいナンバーで、ホーン・セクションの哀感漂う音色が、愛する人と別れる情景を描いた詞の世界に切なくも豊かな陰影を加えている。
10HOLE IN THE WORLD
2003年発表の『ベスト・コレクション』に新曲として収録された楽曲のリマスター・ヴァージョン。同時多発テロによる喪失感とその後の米国社会の変化を嘆きつつ、それを乗り越えようというメッセージが込められている。