ミニ・レビュー
乳がんとの闘病後初のアルバム(10枚目)。そのせいか、いつになくシリアスというかパーソナルでもあることが雰囲気だけからも伝わってくる。もちろん彼女らしい華やかなダンス・ナンバーは健在だけど、音楽的変化も含めぐっと前向きな姿勢が感じられる。
ガイドコメント
通算10枚目となるスタジオ・アルバム。ブリトニー・スピアーズの「トキシック」で知られるキャシー・デニスが手がけた楽曲などを収録。闘病生活を経てより輝きを増した彼女の、ネクスト・ステージが展開された渾身作だ。
収録曲
012 HEARTS
ロンドンのニューウェイヴ・バンド、キッシュ・モーヴをプロデューサーに起用したヨーロピアンなノスタルジック・アプローチ。ガレージ・ロックっぽい生楽器サウンドに抱かれて、カイリーが芝居っけたっぷりに歌う愛の世界は深い。
02LIKE A DRUG
カイリーのポテンシャルは、こんな切ないエレクトロ・ポップによって最大限に活かされるのではないだろうか? 無機質なサウンドにエモーショナルなヴォーカルをあてるカイリーの発明品が存分に楽しめる。サビで世界が明るくなる演出も安易でなく、高品質だ。
03IN MY ARMS
70年代のディスコ・サウンドとニューウェイヴをブレンドしたようなサウンドが熱い。ただ上手に歌うとつまらなくなるノスタルジックな歌メロを、若々しく歌っているカイリーのテクニックが光る。ポップでも不思議な深みを感じる曲だ。
04SPEAKERPHONE
マドンナやブリトニー・スピアーズらとの仕事で有名なブラッドシャイ&アヴァントのプロデュース作品。エレクトロ、ヒップホップ、バウンス、ディスコなどの要素がありながら、まったく新しい世界を体験させてくれるハイパー・サウンドにハッとさせられる。
05SENSITIZED
ロビー・ウィリアムスやナターシャ・ベディングフィールドらとの仕事で有名なガイ・チャンバースの制作。プログレ・カントリーといった雰囲気の前衛的なサウンドだが、ポップで聴き易い仕上がりになっている。カイリーの声をはったウィスパーが美しい。
06HEART BEAT ROCK
人気DJカルヴィン・ハリス制作のオリジナリティあふれるサウンド。エモーショナルなエレクトロ・ビートがとてもキャッチーだ。カイリーがいつの時代も稀代のポップ・アイコンであることをまざまざと感じる。ここにあるのは万人受けするパフォーマンスのお手本。
07THE ONE
カイリー・ミノーグの正しい楽しみ方ができる曲。80年代の香りがするサウンドは、あくまで聴き手に判断を委ねてくれる懐の深さが感じられる。ひたすらポップにシンプルにすがすがしく聴かせてくれる娯楽作品のスケールは壮大だ。
08NO MORE RAIN
ザ・バード&ザ・ビーのグレッグ・カースティンのプロデュース作品。ザ・バード&ザ・ビーのイナラ・ジョージのようにカイリーが歌っているところにセンスを感じる。よく色々な声が出るもんだな、と感心してしまうキャッチーな曲だ。
09ALL I SEE
細かい16ビートを歌いまくる21世紀のR&B。イメージを自ら壊して新しい世界を作り出す、カイリーの才能がみなぎっている。時代の先を行くディーヴァにはどんなに新しいサウンドも「ずっと前から知ってたわ」と言われてしまうだろう、と思い知る曲だ。
10STARS
ヒューマン・リーグの「愛の残り火」を思わせる、80年代のニューウェイヴ・ディスコ・サウンド。サビでロック・アレンジに変わるのが21世紀流だが、それ以上に超エモーショナルに歌うカイリーのパフォーマンスが、ノスタルジックを吹き飛ばしてくれる。
11WOW
世界一ポップなサウンドは? と聞かれたら、この曲と答えてもいいだろう。ダビーなアレンジも吹っ飛ぶドポップな歌メロやカッティングに、カイリーこそがポップ・スターだと再認識。“ウォウウォウ”や“イェイ”がはじけて飛んできそうなサウンドは、快哉にあふれている。
12NU-DI-TY
ネプチューンズ風の前衛的なリズム・トラック。カイリーが演じる艶パフォーマンスは、良い意味でいやらしさがない。プリンスっぽいヴォーカル・アプローチや少々披露されるラップ、エンディングの日本語“どういたしまして”のどれもが謎めいていて良い。
13COSMIC
ジェイムス・モリソンらとの仕事で知られるエグ・ホワイトとカイリーの共作。カイリーの“私はここにいるわ”に胸が熱くなる壮大な曲だ。バラードと評しては陳腐に感じるドラマティックな世界には、美しい歌唱がたくさん詰まっている。
14KING OR QUEEN
ギターのディスコ・カッティングが印象的な80年代のブラック・コンテンポラリー風サウンド。カイリーの少女のような声には驚嘆。カメレオンのようにサウンドに絡みつくパフォーマンスが、とてもエネルギッシュだ。
15I DON'T KNOW WHAT IT IS
ライナセロスを彷彿とさせるデジタル・ロック。ダンス・ビートのリズムの上で鳴る、無機質なロックに合うパフォーマンスはこれしかないだろう。クールに女の子っぽく振る舞うカイリーの歌唱は、歌う姿が目の前に浮かぶような臨場感で楽しませてくれる。