ミニ・レビュー
引退後の第2弾。同名映画に自身の過去を重ね合わせて作られただけあり、管を含む楽器を多用して荘厳かつ叙情的に仕上げられたトラック上で、各曲生々しい情緒が吐露された大作。発売間もなくレーベル重役職を退いて現役復帰との報が届いたのも納得。★
ガイドコメント
10thアルバムは映画『アメリカン・ギャングスター』をベースに制作された、初のコンセプト・アルバム。映画本編のハイライト・シーンがライムされた、ストリート感あふれるダイナミックなヒップホップが味わえる。
収録曲
01INTRO
伝説のドラッグ・ディーラー、フランク・ルーカスの実話を映画化した『アメリカン・ギャングスター』のダイアログを流用した同名アルバムの導入曲。繰り返される“ギャングスター”が重く響いてくるドラマティックな作品だ。
02PRAY
ジェイ・Z得意のサビなし、ラップだらけのディディのプロデュース作品。特にメロディらしいメロディが出てこなくても全編聴かせてしまうジェイ・Zのポテンシャルを思い知る曲だ。緊張感あふれるディレイ・トラックもかっこいい。
03AMERICAN DREAMIN'
マーヴィン・ゲイの「スーン・アイル・ビー・ラヴィング・ユー・アゲイン」を下敷きにしたサウンドが物憂げに響くディディのプロデュース作品。全編にちりばめられたマリオ・ワイナンズのヴォーカルが冴えわたる、メロウでシリアスなサウンドだ。
04HELLO BROOKLYN 2.0
ジェイミー・フォックスらとの仕事で知られるビッグ・Dの作品。野太いサブリミナル・ベースがとてもクレイジーだ。シャイ・ライツの「ハヴ・ユー・シーン・ハー」のフレーズも飛び出す、リル・ウェインの変幻自在のパフォーマンスに体がうずく。
05NO HOOK
中域サウンドでうねりまくる生ベースが耳に絡むディディの作品。スウィート・ソウルの権化、バリー・ホワイトの「ラヴ・セレナーデ」のフレーズが荘厳に響く。リズム・ヒットにフロウのアクセントを当てるジェイ・Zのテクニックがにくい。
06ROC BOYS (AND THE WINNER IS)...
これぞ正しい古き良きR&Bサウンド!! マナハン・ストリート・バンドの「Make The Road By Walking」のホーン・フレーズの流用に飛び上がって拍手したくなる。ポップなフロウとキレのあるトラックの相性が抜群の出来だ。
07SWEET
70年代のソウルはまぶしい、と感じるサウンド。ルディ&ザ・ラヴ・ファミリー「Does Your Mama Know」のループが狂おしく響いてくる“スウィート”ではない作品だ。生のコンガが意味深にダビーに響いてくる。
08I KNOW
かたくなにネタ使用を拒むネプチューンズならではのキャッチーなサウンド。ファレルが控えめに曲を盛り上げる演出や珍しく歌うジェイ・Zのパフォーマンスが楽しい。音がしなやかに混ざり合っていく世界は、超ハイクオリティだ。
09PARTY LIFE
さわやかなサウンドのせいか、“俺ってモテ男”ソングが爽快に聴こえる。東海岸ソウル、リトル・ビーヴァー「ゲット・イントゥ・ザ・パーティ・ライフ」の元歌を残したネタ使いのアクセントが、サウンドの奥行きを広げている。
10IGNORANT SH*T
古典アイズレー・ブラザーズの「ビトウィーン・ザ・シーツ」を大胆に料理したジャスト・ブレイズの作品。原曲をバラバラにして派手にフレーズを練り上げたアレンジは大成功だ。大仰な演出がジェイ・Zのパフォーマンスをあおっている。
11SAY HELLO
DJトゥーンがいざなうリッチ・サウンド。甘いストリングス・フレーズはトム・ブロックの「The Love We Share Is The Greatest Of Them All」から。ジェイ・Zのもたれかかるようなパフォーマンスが印象的だ。
12SUCCESS
NASとジェイ・Zの共演にはこんなパワフルなトラックが必要だ。強烈なオルガン・ループはUKレア・ファンクのラリー・エリス&ザ・ブラック・ハマーの「Funky Thing Part.1」から。2人のサウンド・アプローチの違いが鮮やかな作品。
13FALLIN'
リズム・プロダクションがクールなジャーメイン・デュプリのプロデュース作品。ドラマティックスの「フェル・フォー・ユー」を惜しみなくいただいたメロディアスなサウンドだ。新たに加えられたヴォーカル・パートとジェイ・Zのメリハリが心地よい。
14BLUE MAGIC
コード感を廃した世界観で聴かせてくれるネプチューンズの作品。ジェイ・Zの声のかっこ良さが存分に堪能できる。アン・ヴォーグの大ヒット「ホールド・オン」のフレーズが飛び出すが、これはご愛敬といったところだ。
15AMERICAN GANGSTER
エンディングのピアノが寂しげに響く、本編派手アレンジのジャスト・ブレイズ作品。同名映画『アメリカン・ギャングスター』の内容が凝縮されたリリックは、ハスラーであったジェイ・Zの自己描写とそれを受け入れた清々しさにあふれている。