ミニ・レビュー
日本でもヒットした「恋はマイアヒ」をネタ使いし大胆にリアーナを迎えた「マイアヒ・ライフ」、さらにジェイ・Z、カニエ・ウェスト、リル・ウェインと客演した「スワッガー・ライク・アス」とトピック曲が目立つが、初期の作風もうかがえる。波乱の人生を反映した、原点と進取の精神を融合させた6枚目。
ガイドコメント
映画『アメリカン・ギャングスター』への出演を果たすなど幅広い活躍をみせているヒップホップ・アーティスト、T.I.の6thアルバム。危険な香りを漂わせた、緊張感あふれる一枚となっている。
収録曲
0156 BARS
デビュー以来の盟友・トゥーンプが制作したアルバム『ペーパー・トレイル』のイントロとなる“56小節”。アンドレ3000、ビギー、2パックなど敬愛するアーティストを挙げるとともに、“スワッガー”(大口叩き)自慢を炸裂させている。
02I'M ILLY
常にオーラを発し“キング”の称号を得たオレのレベルは“イル”を超えて“イリー”に達してると挑発する曲。ラッパー同士のバトルなら任せろと凄む悪びれたフロウがよく合うトラックは、チャック・ディーゼルによるプロデュース。
03READY FOR WHATEVER
“車に銃を載せていただけで刑務所行き”と、自身の銃不法取引容疑による逮捕についての告白。罪は当然のこととしながら、“死ぬか刑務所かしか選択肢がなかった”と当時の苦しい心境をシリアスに綴っている。ドラマ・ボーイ制作曲。
04ON TOP OF THE WORLD
確執が噂されていたリュダクリスの曲に参加したT.I.が、新鋭のB.o.Bを加えての客演返しとなったマイク・リレー。比喩と重複表現を駆使して夢を現実にしたことを誇示しながら、世界のトップに君臨している現状を歌っている。
05LIVE YOUR LIFE
“マイアヒ〜、マイアホ〜”で知られるO-ZONEの大ヒット「恋のマイアヒ」を大胆に採用した超冒険曲。贅沢にもリアーナを迎え、“あなたの人生を生きていけばいいだけ”と歌う。見事にクラブ・バンガーに仕立てたジャスト・ブレイズの手腕が光る。
06WHATEVER YOU LIKE
アルバム『ペーパー・トレイル』のリード・シングルとして1位を記録した、ジム・ジョンシン制作曲。女の身体目当ての成り上がり野郎に対して、T.I.が紳士的に“君が気に入ったものは君のものさ”と貫禄と余裕を見せつけている。
07NO MATTER WHAT
アルバム『ペーパー・トレイル』から最初に公開された、服役直前における決意表明曲。モハメド・アリの言葉“偉大なる者も苦しむ時がある”を引用しつつ、“オレは終わっちゃいねぇ”と告げるセンチメンタルなミッド・スロー・チューン。
08MY LIFE YOUR ENTERTAINMENT
スキャンダルと背中合わせの自身の人生を振り返り、“オレの生き方はオマエにとっての娯楽だな”と皮肉った曲。ニーヨ同様にスターのアッシャーとともに、ショウビズ界を生きる苦悩を切実に語っている。ドラマ・ボーイのプロデュース。
09PORN STAR
リル・Cのプロデュースによるムーディなミッド・チューン。ナンパでゲットした彼女に、たゆたうようなウィスパー・フロウで“キミをポルノ・スターにしちゃってもいいかい”と口説くベッドタイム・ソング。
10SWING YA RAG
アルバム『ペーパー・トレイル』からの2ndシングル。制作も担当したスウィズ・ビーツをフィーチャーし、“ダンスなんかしないでルイ・ヴィトンのバンダナをグルグル回すだけ”とクラブの楽しみ方を伝授するアッパー・バウンス・チューン。
11WHAT UP, WHAT'S HAAPNIN'
ドラマティックなアレンジが緊迫感を煽るドラマ・ボーイ制作曲。ジャズ・フュージョンのハーヴィー・メイソン「ネヴァ・ギヴ・ユー・アップ」を拝借し、低いトーンで不穏なフロウを展開。名前こそ出さないものの、ショーティ・ローへのディス・ソングだ。
12EVERY CHANCE I GET
“どんなチャンスも逃さねぇ”と自身がトップへとたどり着くまでのサクセス・ストーリーを誇示しながら綴っていくミッド・チューン。トゥーンプの情熱的なトラックに乗せられて、T.I.が感情をたぎらせながらフロウするアウトロが秀逸。
13SWAGGA LIKE US
ジェイ・Z、カニエ・ウェスト、リル・ウェインを迎えたなんとも豪華な曲。“あたしたち以上にイケてるヤツなんていないわ”というM.I.A.「ペーパー・プレーンズ」のフレーズを敷き、それぞれが“スワッガー”(大口叩き)自慢を繰り広げている。
14SLIDE SHOW
エルヴィス“ブラック・エルヴィス”ウィリアムス制作によるピースフルなミッド・チューン。ジョン・レジェンドをフィーチャーしているためか、かなりジョン寄りのソウルフルな楽曲で、T.I.がいつもの傲慢なフロウではなく真摯に人生を語る異色作。
15YOU AIN'T MISSIN' NOTHING
哀しみを漂わせるピアノの旋律にギターとホーンが絡むドラマ・ボーイ制作曲。鉄格子の向こう側にいる人たちへ“外の世界で見逃してることなんてそんなにないぜ”と励ます内容だが、当時の刑期を務める自身への問いかけにも聴こえてくる。
16DEAD AND GONE
客演したジャスティン・ティンバーレイクとロブ・ノックスの共同制作によるセンチメンタルなミッド・チューン。美しいピアノと叙情的なストリングスのアクセントが、“昔の自分は消え去った”と告げる意味深な内容をより濃密なものにしている。
17COLLECT CALL
ジェイムズ“ナード”ロセール&ブランドン“B”ラックリー制作による、なめらかでスウィートなブラコン風ミッド・チューン。トップに立ち続ける者の憂鬱と孤独を綴りながら、“オレのコレクト・コールに応えてくれるか”と問う。
18I KNOW YOU MISSED ME
物悲しさを携えたシンセとギターに包まれながら、ファットなボトムの上でリリシストぶりを見せるT.I.に胸が熱くなるミディアム・チューン。プロデュースはグランド・ハッスルからトゥ・バンド・ギークスが担当。