ミニ・レビュー
2008年3月にアルバムをリリースしたばかりのアジカンから、早くもアルバムが届けられた。前作『ワールド・ワールド・ワールド』はメッセージ性の強いシリアスな作品だったが、今作は江の電の駅名を曲のタイトルに冠しており、キャリア中最も肩の力の抜けた内容に仕上がった。
ガイドコメント
2008年2枚目となるフル・アルバム。江ノ電の各駅を曲タイトルに冠したコンセプト・アルバムで、湘南のスタジオでレコーディングされている。リラックスしたムードの中にも高い実力がうかがえる仕上がりだ。
収録曲
01藤沢ルーザー
これまでのシングルのなかでは3分弱と一番短い12枚目。爽やかに駆け抜けるエモーショナルなサウンドが魅力の躍動感あふれるナンバーで、アグレッシヴなギターとベースが熱いグルーヴを作り出し、太陽が輝く夏を感じさせる。
02鵠沼サーフ
9thシングル「或る街の群青」のカップリング収録曲のイントロがカットされたアルバム・ヴァージョン。エフェクティヴなギターが目立ち、間奏では不規則になるも違和感はない。夏のサーフショップをめぐる人間模様を描いた、リズミカルなナンバーに仕上げている。
03江ノ島エスカー
11thシングル「転がる岩、君に朝が降る」のカップリング収録曲。“江ノ島エスカー”とは江ノ島にある屋外有料エスカレーターのことで、江ノ島の景色と切ない青春を歌ったもの。歪んだギターのメロディがほのかにメランコリックな雰囲気を醸し出している。
04腰越クライベイビー
激しいサウンドのイントロで始まる3拍子のミディアム・ナンバー。温かさのあるメロディにヴォーカルの後藤の裏声が乗り、切なさや懐かしさを感じさせる。悲しい記憶をなかったことにしたとしても、あとでそれを見つけるのは自分なんだよと諭している。
05七里ヶ浜スカイウォーク
イントロの軽やかなタンバリンとは対照的に淡々とした後藤の歌い出しが耳を引く一曲。前半はリズミカルに流れるメロディがだんだんなめらかになり、水面を漂っているような気分にさせる。ラストに向かうにつれて再び盛り上がっていく展開にも注目。
06稲村ヶ崎ジェーン
ヴォーカルの後藤がドラムの伊地知が叩きそうなイメージで作った、リズミカルで明るいダンサブルなナンバー。歌詞の一人称に珍しく“俺”を使っている。間奏のギター・ソロはライヴでも人気があり、アグレッシヴなベースと弾む歌声も気分を高めてくれる。
07極楽寺ハートブレイク
軽やかなリズムではあるがノスタルジックな雰囲気も併せ持つ一曲。梅雨の季節から夏へ移り変わる情景と別れの予感を対比させて描かれているようではあるが、悲しさや寂しさを感じさせない爽やかな歌詞に仕上がっている。クリアなサウンドもなじみやすい。
08長谷サンズ
エッジの効いたギターが焦りを感じさせるミディアム・ロック・ナンバー。エモーショナルなサウンドとコーラスは、君を想って不意に駆け出すような心情を思い浮かべさせる。タイトルは“馳せ参ず”のダジャレになっている。
09由比ヶ浜カイト
10thシングル「アフターダーク」のカップリング収録曲で、曲の最後の笑い声をカットしたヴァージョン。ミディアム・スローの温かくも切ないメロディが“君”を探す様子を思い浮かべさせる。アグレッシヴになる中盤の展開にも注目。
10鎌倉グッドバイ
5thアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』の最長曲。アコギを使用したスロー・ナンバーで、温かく静かなメロディと過去を思い返した優しく切ない詞が夏の終わりを感じさせる。柔らかい風に吹かれているような感覚にさせる穏やかなオルガンが心地よく響く。