ミニ・レビュー
『HOME』以来約1年ぶりとなる15作目。『恋空』主題歌「旅立ちの唄」、NHKの北京オリンピックのテーマ・ソング「GIFT」、映画『私は貝になりたい』主題歌「花の匂い」などタイアップ・ナンバー満載なので誰でも楽しめる、ここ一年のベスト的内容の一枚。全体的にポップ。
ガイドコメント
通算15枚目となるオリジナル・アルバム。映画『恋空』『私は貝になりたい』やTVドラマ『バッテリー』をはじめ、数々のタイアップ曲を収録。リスナーとともに成長し続ける音楽が何とも心地いい。
収録曲
01終末のコンフィデンスソング
パーカッションとブラスを組み込んだ軽快なブルース・ロック風のミッド。ファルセットで“Oh No! 焔”と韻を踏むサビがハイライト。周囲の評価に惑わされず自分をしっかりと持てと励ましながら、ゴシップをたきつける者をチクリと皮肉るところがニクい。
02HANABI
フジテレビ系ドラマ『コード・ブルー〜』主題歌の33rdシングル。人生で繰り返される悲喜の刹那を、華やぎ輝くも一瞬にして寂莫が訪れる花火にたとえている。“もう一回”というコーラスと哀愁にほのかな希望を感じさせる得意のメロディ・ラインが沁みるミッド。
03エソラ
“絵空事”からとられたと思しきタイトルのミディアム。希望や夢は見方一つで変わることを音楽になぞらえて綴っている。ストリングスやブラスを配したドラマティックでセンチメンタルな展開が、ボーイズ・タウン・ギャング「君の瞳に恋してる」を彷彿とさせる。
04声
広がりのあるブルージィなギターが映えるミディアム・ロック。巧拙は関係なく、胸にある思いを相手に伝えることが大切だという桜井の心の叫びともとれる詞に、説得力を感じる。終盤で一旦演奏を止める演出が効果的。フジテレビ系ドラマ『コード・ブルー〜』挿入歌。
05少年
NHKドラマ『バッテリー』主題歌のミディアム・チューン。少年とは“僕の中の少年”のことで、直情的でピュアな“君”への思いと冷静で客観的な大人の視点との狭間に揺れる心情を、巧みなヴォーカル・ワークで描写している。繊細なメロディ・ラインが秀逸。
06旅立ちの唄
東宝系映画『恋空』主題歌、NTT東日本CMソングとなった31枚目のシングル。導入はさらっとしながら終いに高ぶりをみせるメロディ展開は、彼らが得意とするところの一つ。別れを恐れず明日の出会いへと旅立とうという、ほんのり切なく温もりのある曲。
07口がすべって
価値観や考え方の違いで理解し合えないこともあるけれど、許し合う良さも持っていると語るコンシャスなナンバー。国際理解という民族の課題を、口をすべらせて怒らせたという日常的なことに言い換え、人懐っこい歌唱で描写した構成が素晴らしい。
08水上バス
水上バスから僕を見つけて手を振る君という愛おしい風景をフラッシュバックさせながら、次第に心に満ちていく“君がいない悲しみ”について綴った失恋ソング。音数の少ない鍵盤とぬくもりのあるギターをバックにした、ほろ苦くも甘酸っぱいサウンドが絶妙。
09東京
彼らの真骨頂ともいえる、憂いや切なさを醸しながらも希望を感じさせるメロディがピッタリとハマったミディアム・ナンバー。夢を追ってたどりついた東京の冷たさや厳しさに打たれながら、東京での大切な想いを胸に生きようとする生命力を感じる曲。
10ロックンロール
ストレートなタイトルよろしく、シンプルなロック・サウンドで展開するミディアム・ナンバー。ドラム・パートから始まるイントロがクールだ。柄も器も違うけれどロックスターのイメージに憧れるという想いを、親近感ある歌唱で披露している。
11羊、吠える
巧妙なアイロニーやひねくれ加減が、これぞミスチルといえる、31thシングル「旅立ちの唄」のカップリング曲。強烈な印象は残さないがゆえに引き入れてしまう過不足ないバンド・サウンドに乗せ、狼のように強く主張できない気弱な自身について問うている。
12風と星とメビウスの輪
32ndシングル「GIFT」のカップリング曲のアルバム版。原曲はヴォーカルとピアノのみだが、次第にストリングスやホーンなどが加わる荘厳なアレンジに変わっている。支え合う大切さを歌うドラマティックなバラードだ。
13GIFT
NHK『北京オリンピック』テーマとなった32ndシングル。“一番きれいな色ってなんだろう?”と問いかけながら、地球上のさまざまな人種・民族と共存する意味を隠喩として描いた詞が出色。下手に格好つけない歌唱と終盤のホープフルなコーラスが感動を誘う。
14花の匂い
東宝系映画『私は貝になりたい』主題歌となったミスチル初の配信限定シングル。マーチ風のドラミングを敷きながらクライマックスへ向かうドラマティックな展開は、“さよならは出会いのはじまり”という詞世界のごとく、切なくも希望にあふれたものとなっている。