ミニ・レビュー
6年ぶりのオリジナル・アルバムは、全編、拓郎節の全10曲。その時々の思いをそのまま唄ってきた人らしく、人生を振り返る境地に至った心情を素直に描き出す。過ぎ去りし頃を唄っても、決して後ろ向きにならない骨っぽさが、なによりもこの人の魅力だ。
ガイドコメント
エイベックスへ移籍しての第1弾リリースとなる、実に6年ぶりのオリジナル・アルバム。収録曲のすべてが書き下ろしという意欲作で、彼の等身大の想いが表現されている。国内のトップ・アーティストが参加。
収録曲
01ガンバラナイけどいいでしょう
一見ネガティヴな“頑張らなくてもいい……”というスタンスもあっていいと肯定する拓郎流応援歌。希望を見出せず、虚無感や無関心などが当たり前のようにはびこる日常において、自分らしくあるためのマイペースの良さをホロッと語り歌う。
02歩こうね
朝日の陽光を受けるような、清々しく温かなムードに包まれたスロー・ナンバー。人生という名の旅を続けるすべての人たちへ、“歩こうか、歩けるネ”と優しくそして強く語りかける歌唱が沁みる、人生賛歌となっている。
03フキの唄
フキは茎も葉も、たけのこは固いところも好きという比喩を用いて、美味しいところばかり求めるのが人生じゃないと説いた教訓ソング。貧しくても平和ならそれでいいと自身の経験を含めて語る拓郎の歌唱は、せかせかするなよと肩をたたく兄貴のよう。
04真夜中のタクシー
拓郎と運転手のタクシーでのやりとりを、一人二役でこなしながら綴られるほんわかフォーク。東京出身だけどタイガース好き、若手ゴルファーの活躍、移り変わる街並みなどの会話をはさみながら、人情味ある真夜中の東京の風景を描き出す。
05季節の花
都会暮らしも久しい鹿児島生まれの拓郎が、虚ろな時にふと花を見つめてその健気さから生きる力を実感する歌。“また雨が降り、またウソをつき……”と語る拓郎を、陽気なギターや威勢のいいドラムなどが励ましているようで微笑ましい。
06今は恋とは言わない
すれ違いと意地の張り合いばかりの夫婦模様を描きながら、素直に愛情を伝えられない男の心情を歌う。年を重ねるにつれ出会った頃の恋心は失われても自分たちらしくそれなりに生きていこうという、拓郎らしい第二の人生を生きる夫婦へのメッセージ・ソングだ。
07ウィンブルドンの夢
何気ない日々も青春時代のように思いを馳せれば、また歩き出せるんだよという人生応援歌。シンプルでフォーキーなサウンドに乗せて、“ウィンブルドンにも出たかった”“ワールドカップも出たかった”と無邪気に、清々しく歌うさまが痛快。
08早送りのビデオ
ゆったりとした旋律の上で、自分の人生を“早送りのビデオ”のようと振り返る、中年の気持ちを代弁した歌。後悔とジレンマを重ねて日々進んだだけだったといいながら、まだまだ負けんと反骨心をほのかに見せるあたりに、拓郎らしい気概が見て取れる。
09Fの気持ち
“ドキドキしながらCから”“Bなんてややこしい”など何やら意味深にアルファベットを羅列するが、これはギター・コードの話。とはいえ、“そちら”に無関係とはいかず、ギターが女ならFは男の権利と言い切るところが楽しい。明るく突き抜けるサビも爽快。
10あなたを送る日
人生での“別れ”に際して、大切な人に送る感謝の歌。別れが現実になってはじめてわかった心境を、しみじみと、しかしながら前向きな歌唱で披露している。楽曲も朗らかで、明るいはなむけのようなアウトロもにぎやかでいい。