ミニ・レビュー
バンド初期の作品『grope our way』『WAIT AND WAIT』『A MAN OF THE WORLD』のほぼすべてを再録音。当時の作品の契約トラブルに端を発するらしいが、ライヴを重ねて生命力を増した楽曲の凄みを存分に味わえるという意味で、歓迎すべき作品だ。ひとこと、唯一無二。
ガイドコメント
初期音源をセルフ・アレンジで完全再録音したアルバム。96年発表の『group our way』、97年の『WAIT AND WAIT』、98年の『A MAN OF THE WORLD』の3作から、選りすぐりの名曲を収録している。
収録曲
01THAT'S ALL
2分弱の短い曲ではあるが、ブラフマンらしい強さと勢いを表わすアップ・ナンバー。静かにアルペジオを奏でるギターから始まり一気に爆発、そして疾走するサウンド。“行動欲それだけが現実”という歌詞にふさわしい躍動感が伝わってくる。
02THERE'S NO SHORTER WAY IN THIS LIFE
“人生に遠回りはあるが近道はない”と力強く歌う一曲。日々の変化についていけない弱いあなたを置き去りにしたことを謝りながらも、自分はあなたのようにはなりたくないという思いを再確認できたことに感謝する詞が、生きる厳しさを痛感させる。
03ANSWER FOR…
ノスタルジックな雰囲気と熱いグルーヴ感が混ざるナンバー。メロウなギターが奏でるゆったりとした心地よいサウンドで日々の苦しみを歌う。一人でも強く生きることを悟った瞬間、道が拓けたように解放される躍動的なメロディ展開は秀逸。
04NEW SENTIMENT
気迫のこもったTOSHI-LOWの声に圧倒される疾走感あふれるナンバー。感情に振り回されたとしても、生まれてからの時間を冷静に受けとめ強く生きていけという思いが込められた詞が胸を打つ。アグレッシヴで激しいサウンドに気持ちも高ぶる。
05TONGFARR
自分自身の存在理由を考えさせられる、彼らを代表する曲の一つ。“扉を開け 君自身という扉を”という詞に希望の光を見出すことができる。98年発表のオリジナルとは違ったイントロ・アレンジがより民族音楽色を強め、壮大な世界観の仕上がりとなっている。
06GOIN' DOWN
未来に望みなどなく落ちていくことを願うも、自分で扉を開くための情念が必要だということを暗示する歌詞に強い生命力を感じる一曲。騒がしくも正確にリズムを刻むドラムと激しいギターが目立ち、繰り返す“going down”というフレーズが印象的。
07CHERRIES WERE MADE FOR EATING
東宝映画『ハウス』の劇中歌に使用されたゴダイゴの同名曲のカヴァー。ミディアム・テンポで軽やかなオリジナルとは違い、ブラフマンらしいスピード感とエモーショナルなサウンドに仕上がっているが、爽やかさは残っている。
08NO LIGHT THEORY
信念が揺らぎ本質が見えなくなったあなたに対して、ためらいながらも確実に前へ進めと闘志を掻き立てる。随所に現れる情熱的な激しいフラメンコ・ギターが印象的だ。TOSHI-LOWとの絶妙なバランスでコーラス参加しているのは川村カオリ。
09HIGH COMPASSION
引きこもる意識から目覚めるように“すべては何処に帰る”と問う。迷走する心と虚無感を淡々と綴った歌詞が、シンプルながらも生きる意味の深さを感じさせる。闘魂こもるTOSHI-LOWの歌声とそれに呼応する熱い掛け声が耳に残る一曲。
10SEE OFF
最初から最後までアグレッシヴで疾走感のあるサウンドが続く、ライヴでもおなじみのアップ・ナンバー。掛け声に気迫が感じられ、人間の愚かな生き方に満足せず感覚で日々を送れと警告しているようだ。間奏のギター・プレイは圧巻。
11時の鐘
98年発表の1stアルバム『A MAN OF THE WORLD』のなかで唯一すべて日本語で綴られた曲の再録。生きる苦しみから解放されるために確かな答えを求めるも、無情にも時だけが過ぎる哀感を歌う。後半は不安が込み上げたように声も荒々しくなる。
12ARTMAN
始まりの掛け声と悪鬼迫る歌声が印象的な、ダークかつアグレッシヴなナンバー。全体に不穏な空気が漂い、終始何かに追われているような緊迫感を感じる。周りに踊らされることなく真実を見極めろと警告する内容だ。
13BEYOND THE MOUNTAIN
ハードでありながら祭ばやしを思わせるイントロのメロディとドラムのリズムが特色。何も考えずただ訪れるものに立ち向かえと気合いを入れるような詞とサウンドで胸が高まる。スピード感のある掛け合いを見せるヴォーカルも魅力だ。
14RESULT OF NEXT
邪念を振り切るように疾走するサウンドが歌詞とリンクする一曲。繰り返される日常と諸行無常の世界のなかで、何が真実で何が虚偽かの判断の正しさを自問自答する。“間違っていたならば自分自身を否定する”と、存在自体も疑っている。
15THE SAME
実際には存在しない“君”を現実に見てしまった不安定な自分の心情を冷静にとらえようとする。絶望に満ちた叫びが混乱する気持ちを表わしているよう。4つ打ちでリズミカルではあるが、哀愁漂うサウンドが寂しさを感じさせる。
16GREAT HELP
迷いながらも必死に生きていた過去と、再び自分の進むべき道を照らす光が来ることを祈る現在を描く。“本当の自分を知る必要なんてない”と自身に諭す詞に希望を感じる。印象的なギターのリフに引き込まれてしまう一曲だ。
17ROOTS OF TREE
沖縄民謡独特の弦の響きとギターのメロディが心地よいスロー・ナンバー。待っても来ない人を想い明日が来ることに不安を抱くも、前に進む強さを見せた詞が切ない。自分次第で幸か不幸かが決まるというメッセージが込められている。