ミニ・レビュー
本来的には律儀な人なのだろう。東京事変では歌い手という役割に徹しすぎて殺傷力が低下気味だったのが、6年ぶりとなるこのソロ作で久々に炸裂。多彩な曲を芝居っ気たっぷりに演じ分けてみせる。『NHKみんなのうた』で放映の「二人ぼっち時間」は、斎藤ネコとの相性のよさが活きた名曲。★
ガイドコメント
2009年6月24日リリースとなるソロ名義のアルバム。自信の裏返しともいえるタイトルよろしく、濃密な“林檎ワールド”が堪能できる。「りんごのうた」以来二度目となる、NHK『みんなのうた』への提供曲「二人ぼっち時間」などを収録。
収録曲
01流行
マボロシとPE'Zの豪華メンバーが作るジャジィでロックなサウンドに、軽快なハンド・クラップのアクセントを加えたアップ。坂間大介(Mummy-D)のラップに、ハヤりの女がいいなら他を当たってと強気にあしらう林檎の艶っぽい歌唱が絡む。
02労働者
軽快なサウンドとは裏腹に、世の不況を嘆くような歌詞が印象的なジャズ・ロック・ナンバー。サポートに100sのメンバーを迎えたにぎやかな音に乗せて“したいことだけしてたい”という人間の欲望をさまざまな声色で歌い上げる。
03密偵物語
7thシングル「真夜中は純潔」の続編として作られたというアッパーなラテン・ジャズ。ヴィブラフォンとフルートが競演する間奏での日本語のセリフ以外は全編英語の歌詞で、タイトルよろしくそのままスパイ映画のテーマ・ソングになりそう。
04○地点から
彼女自身がピアノとシンセを担当したエレクトロなミディアム。電子効果音にフルートが爽やかなアクセントを加えるサウンドと、幾重にも連なった美しいハーモニーを楽しめる。不思議な歌詞には椎名林檎独特の世界が広がっている。
05カリソメ乙女
2006年11月に配信限定でリリースされたシングルを初CD収録。SOIL&“PIMP”SESSIONSを迎えた爆音ジャズ・サウンドに、巻き舌を交えた激しい歌唱がマッチしたアップ・ナンバー。彼女が音楽監督を務めた映画『さくらん』の主題歌。
06都合のいい身体
斉藤ネコ率いるオーケストラが奏でる華やかなミュージカル調サウンドが特徴の一曲。速い3拍子のリズムに細かく動く管楽器とヴァイオリンや鉄琴の音色が彩りを添える。言い訳しがちな人間を皮肉ったストーリー性のある歌詞が面白い。
07旬
シンプルなサウンドで聴かせるしっとりとしたバラード。ストリングスが映える泣きメロに、J.A.Mによるジャジィなアレンジが心地よい。“いつかくる別れや衰えていく恐れを逃がして”と歌う極上のラヴ・ソングに仕上がっている。
08二人ぼっち時間
NHK『みんなのうた』のために書き下ろされた椎名林檎版“ドレミの歌”。陽気なボサ・ノヴァ調のイントロからスウィンギーなサビへと変化し、中盤からタップが入るなど遊び心にあふれている。子供向けらしいメロディ・ラインが親しみやすい一曲。
09マヤカシ優男
突き抜けるようなホーンのファンファーレで始まる全英詞のアップ・ナンバー。SOIL&“PIMP”SESSIONSらしいノリのいいラテン調ジャズに、エコーの効いたヴォーカルが伸びやかに響く。間奏のサックス・ソロも聴き応えあり。
10尖った手口
大胆にエフェクトをかけたヴォーカルと鋭いサウンドが光るエレクトロ・チューン。“死刑判決”“遺言”などダークな詞世界が怪しげな世界を作り出す。坂間大介のラップに自身のユニット名の“幻”というフレーズをさりげなく入れるところがニクい。
11色恋沙汰
アレンジに服部隆之を迎えた、流れるようなベース・ラインが印象的なジャズ・ナンバー。“火照った頬に若葉が切り絵を映して”など、豊かな自然描写にも椎名林檎の才能がうかがえる。ウキウキとした気分になれるラヴ・ソングだ。
12凡才肌
cobaによるアコーディオンと歌のみで構成された洋風演歌ともいえるスロー・ナンバー。静かな歌い出しで始まるが、徐々に体の底から搾り出すような歌唱へと変化し、最後には絶叫ともいえる声へと昇り詰めるさまは圧巻だ。
13余興
2008年に行なわれた10周年記念のソロ・ライヴ“林檎博”で初披露されたナンバー。スタンダードなバンド編成にスタイリストやマネージャーを起用したコーラス&ハンド・クラップが面白い。サビのタンバリンがいいアクセントになっている。
14丸の内サディスティック (EXPO Ver.)
「余興」と同じく“林檎博”のエンド・クレジットで使用された、1stアルバム収録の同名曲のEXPOヴァージョン。日本語と英語を織り交ぜた詞をゴスペル調のバック・コーラスで歌い始め、中盤でベースと打ち込みのクラップが入るシンプルな構成だ。