ミニ・レビュー
くるり既存の作品を、16アーティストがそれぞれの流儀でカヴァー。あたかも自分の曲のように歌っている奥田民生から、意外なくらい可憐なユーミンまで、多彩な解釈が並ぶ。思いきりケルティック・トラッドに料理したハンバート・ハンバートの「虹」が、かえって新鮮。
ガイドコメント
くるりを敬愛するアーティストが集結し、くるりの大ヒット曲から隠れた人気曲までをカヴァーした2009年10月21日リリースのトリビュート・アルバム。奥田民生、松任谷由実など豪華なメンツが、くるりの10周年イヤーを締めくくる。
収録曲
01赤い電車 (anonymass)
独自のセンスを持つチェンバー・ポップ・バンド、anonymassによるカヴァー。ホーンやキーボードで音楽隊風の可愛らしいアレンジを施し、マーチのような楽しげな曲に仕上げている。透明感のある優しい歌声に癒される一曲。
02ロックンロール (andymori)
大幅なアレンジを加えず、軽快な8ビートでオリジナルの曲構成を再現した、andymoriによるカヴァー。若さあふれるクリアで爽やかなサウンドにのせ、幼さ残る歌声で初々しく歌い上げた一曲となっている。
03Baby I Love You (矢野顕子)
ピアノの弾き語りでゆったりと繊細に歌う矢野顕子の声に惹きつけられる一曲。リズム、メロディともにオリジナルとは異なるメランコリックで悲しげな雰囲気のサビでは、もはや自分の曲かのように彼女独特の世界観を出している。
04ばらの花 (奥田民生)
軽やかかつアンニュイな歌声が楽曲の雰囲気に見事にマッチし、奥田民生自身の楽曲のようにも思える一曲。サビの控えめなキーボードや間奏のギター・アレンジ以外はほぼそのままで、オリジナルに近い心地よいサウンドを堪能できる。
05言葉はさんかく こころは四角 (木村カエラ)
オリジナルのイメージを崩さないように、一言一言丁寧に歌った一曲。チープな印象を与えるキーボードや電子音が逆に木村カエラの優しい歌声を引き立て、ほっこりとした温かさを感じさせる。クラップを入れるなど、彼女らしい清らかな仕上がり。
06さよならストレンジャー (曽我部恵一)
曽我部恵一のアコギ弾き語りによるカヴァー。岸田の高校時代を綴ったという曲を、枯れた渋い声で丁寧に歌う。バックで流れるシンプルで透き通ったピアノが、ふいに遠い昔の記憶を思い出したときのような懐かしさとほろ苦さを感じさせる。
07虹 (ハンバートハンバート)
フィドルやマンドリンを加え、ハンバートハンバートらしいケルティッシュ・トラッドにアレンジしたナンバー。佐野の女性らしい瑞々しくたおやかな歌声と、佐藤の味わいある独特な歌声が混ざり合って、開放感あふれるサウンドをより際立たせている。
08ワンダーフォーゲル (高野寛)
オリジナルほどの鮮やかさはないが、適度なしなやかさを加えたサウンドが温かみを感じさせる一曲で、素朴で柔らかい歌声も曲になじんでいる。高野寛なりのポップ感覚を取り入れた耳当たりのよさは、世代を超えて好まれそうだ。
09ワールズエンド・スーパーノヴァ (FPM EVERLUST MIX:Fantastic Plastic Machine)
デビュー10周年を記念したトリビュート・アルバム『くるり鶏びゅ〜と』のなかで唯一リミックスされた、“FPM”による楽曲。岸田の歌とコーラスを活かしたシンプルで踊れるトラックに仕上がっている。
10飴色の部屋 (MASS OF THE FERMENTING DREGS)
オリジナルのノスタルジックなイメージを残しながらエモーショナルに鳴り響くサウンドが新鮮。清廉であどけない歌声が儚い詞世界とよくマッチし、“マスドレ”なりの哀切感を出している。ギターの轟音で始まるイントロは彼女たちらしい。
11青い空 (9mm Parabellum Bullet)
“9mm”が得意とするハードな曲を原曲に近い形でカヴァー。焦燥感を煽る重たいサウンドや、サビの切迫した歌唱はそのままに、メタル・アレンジされたギターが狂気的にかき鳴らされる。細かい部分にもこだわっているのがうかがえる。
12春風 (松任谷由実)
カントリー風にアレンジされ、女性の声ではまた違った印象を与えるポップス・ナンバー。春風のような軽快なサウンドで、爽やかな仕上がりを魅せる。少女に戻ったかのように可憐に歌う“ユーミン”が愛らしい。
13ハイウェイ (LITTLE CREATURES)
オリジナルの穏やかなイメージからがらりと変わり、リズミカルで愉快なサウンドに仕上がったナンバー。脱力感のある歌声がさらに楽天的でとぼけた印象を与える。明るさを感じさせるコーラスも独特だ。
14宿はなし (二階堂和美)
しなやかで儚い歌声に心癒される、二階堂和美によるカヴァー。ゆったりとした流れに乗るアコギとヴァイオリンが、静かに滑らかに奏でられていく。昭和の香りを漂わせる、懐かしく温もり感じる楽曲だ。
15Old-fashioned (キセル)
電子音やピアノを用いた謎めいたサウンドに、気の抜けた柔らかい歌唱と温かみのあるハモリが乗り、不思議な感覚に包まれる一曲。キセルのイメージに合う楽曲のせいか、彼らのオリジナルと勘違いしてしまうような仕上がり。
16東京 (世武裕子)
世武裕子によるピアノ弾き語りでのカヴァー。東京に出てきた時の不安や心細さを描いた詞が、繊細さのなかにも芯のある歌唱とよくマッチしている。しんみりとした雰囲気になりすぎず、情緒豊かに歌いこなす表現力に脱帽。